連載947 これは「終わりの始まり」なのか? 国債金利の上昇、暴落で日本経済は破綻する! (中)
暴落で儲けられると考える海外勢との攻防
今年に入って、日銀は市場に追い詰められた。
ヘッジファンド勢は、10年債の金利だけが低く抑えられている“歪み”を突いて、日本国債の売り攻勢に出た。彼は、10年債ではなく、5年債や20年債など他の年限を売り浴びせた。
短期と超長期の国債を売り浴びせて金利を跳ね上げ、それによって10年債のみ金利が低い状態にすれば、売買が成立しなくなるため、YCCを修正せざるをえなくなると読んだわけだ。
日銀はこの攻勢に対し、防戦態勢を取った。全年限の国債を購入対象として購入額を増加させた。上限利回りの0.5%を死守しようと、1月12日は4.6兆円、13日は5兆円の国債を購入した。さらに週明けの16日にも購入を継続したが、金利は0.5%を超えたまま戻らなかった。
日銀は、このような事態をある程度見越して、昨年12月に国債購入額を1カ月9兆円に増額したが、焼け石に水だった。さらに、今週は臨時購入措置を設けたが、これも効かなかった。
現時点では損が出る価格で売っても、いずれ国債価格は下落(=金利上昇)するので、そこで買い戻せば利益が出る。ヘッジファンドでなくとも、ほかの投資家(日本人も含む)、金融関係者もみなそう考え始めたのだ。
もはや、日銀の指し値(上限金利)は信用されなくなった。
国債金利は糸が切れたタコのように上昇一途
こうした状況から見えてくるのは、もう日銀の金融緩和は限界であるということだ。「量的緩和」(QE)を止め、「量的緩和の縮小」(テーパリング)から「量的引き締め」(QT)に転換するほかないということだ。
しかし、そうしてしまうとどうなるか?
たとえば、今回の政策決定会合でYCCでの上限を0.5%から0.75%に引き上げる。するとおそらく、まだ金利は低く“歪み”は解消されないとして、国債売りは続くに違いない。
ならば、YCCを撤廃してしまえばどうなるか?
そうなると、国債金利は歯止めが利かなくなって、1%、1.5%、2%と上昇していく可能性が高い。もしかしたら、一気に数%という暴落も起こりうる。
長期金利の上昇は、住宅ローンや中小企業の資金繰りに打撃を与える。住宅ローン破綻、中小企業倒産が続出することになる。また、国債を保有している銀行、生保などの金融機関の経営も行き詰まる。低金利、ゼロ金利に浸りきっていた日本経済は、総崩れになるだろう。
それに、国債金利の上昇は、財政破綻に直結する。国債費(利払い費)が増加し、さらに新発債の買い手がいなくなるので、国家予算が組めなくなる。財務省によれば、金利が1%上昇すると、3年後の国債費は3.7兆円増加する。2%なら7.5%という。国防費増額、異次元の少子化対策など、みんなすっ飛んでしまう。
日銀が国債を買い続けることはできない
ならば、「日銀はこれまで通り国債を買い続ければいい」「自国通貨建ての国は絶対財政破綻しない」という意見がある。いまだに、こういうことを言う専門家(?)がいるから悲しい。
日銀が許されているのは、国債を国債市場から買うことである。政府から直接買うことは「財政ファイナンス」になるので、法的に禁止されている。
よって、政府の財政破綻を防ぐために、日銀は既存の国債ではなく新発債(借換債)を民間金融機関から購入する。すでにこれは現在行われていて、民間金融機関は日銀が利ざやを付けてくれるので新発債を買い、即座に日銀に売っている。こうして現在、日本国債のほぼ半分は日銀が保有することになってしまった。
となると、これ以上、日銀は国債を買えるだろうか?すでに国債の半分以上を保有しているわけで、いずれ必ず限界がくる。つまり、YCCは永久に続けられない。
SDGs(持続可能な開発目標)がブームだが、日銀の国債買いはSDGs足りえないのだ。
(つづく)
この続きは2月21日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。