連載948 これは「終わりの始まり」なのか? 国債金利の上昇、暴落で日本経済は破綻する! (下)
「財政ファイナンス」の法制化でたちまち破綻
日銀の国債保有が飽和状態に近くなり、国債市場が消滅してしまったら、国は国債を発行できなくなる。よって、現在のように市場に“歪み”を突かれ、金利抑制を止めざるをえなくなったとき、まともな政府なら、やることは一つしかない。
危機を認識し、国債発行を減らすことだ。そうして、真剣に財政再建に取り組むことだ。売れる政府資産を売却し、議員・公務員をリストラし、さらに政府部門の縮小を図る。そうでなければ、増税するしか手はない。
しかし、日本の“金融緩和ボケ”した政治家、あるいは金融無知な政治家が、これを実行するわけがない。
彼らがやりそうなのは、なんとか国債発行を持続させようと、禁じ手「財政ファイナンス」を法制化しようとすることだ。財政法を改正して、「日銀に国債を直接引き受けさせる」という無理筋を通してしまうのだ。
現在、国債の「60年償還ルール」を「80年償還」にしてしまおうと、羽生田光一・自民党政調会長が提唱している。これに、賛同する専門家もいる。さらに、国民民主党や一部の学者は「変動金利付きの永久国債」を提案している。しかし、これらはいずれも「名案」ではなく、その場しのぎの「迷案」ではなかろうか。
とくに日銀の直接引き受けにいたっては、それが政府から発信された時点で、日本財政の信認が吹き飛び、世界中(日本を含む)が日本国債を投げ売りするだろう。国債暴落とともに、円安、株安のトリプル安に突入し、おそらく日本経済は瀕死状態になるだろう。
国債金利の上昇は経済破綻への入り口
日銀の資金循環データによると、2022年第3四半期(暫定値)の日本国債の保有者別内訳は、国債総額1065.6兆円のうちの50.3%(535.6兆円)を日銀が保有している。
残りは、民間銀行など35.9%(382.7兆円)、海外7.1%(75.6兆円)、社会保障基金4.5%(48.1兆円)、家計1.2%(12.7兆円)の順だ。
国債金利が上昇すれば、保有国債の価値は下がる。日銀は簿価会計のため、含み損を計上しなくていいことになっているが、民間はそうはいかない。時価会計だから、金利上昇いかんによっては債務超過になる。それが見えた時点で、国債の落札には参加しなくなるだろう。
日銀がヘッジファンドの空売りに負ければ、なおさらだ。
このような危機的状況を、一般国民のどれほどの人々が認識しているだろうか? 国債金利の上昇が財政破綻、家計破綻、ひいては日本経済破綻への入り口だと、誰がわかっているだろうか?
わかっている人間は、すでに資産を円から切り離している。円建ての株や債券も手放しているだろう。
「トラス・ショック」でも目が覚めない
この国の最大の問題は、少子高齢化による人口減で、いずれ日本人がいなくなってしまうことだが、それに匹敵する問題として、政治家をはじめとする誰もが借金を返済しようとしないことだ。とくに政治にいたっては、1990年のバブル崩壊以降、1度も借金を減らそうとしたことがない。
政治家も問題だが、専門家も問題だ。「MMT」などの馬鹿げた理論ばかり振りまき、それで政府のバラマキ政策に加担してきた。さらに、メディアも同罪だろう。
主要メディアで、ここ30年余り、政府の財政政策を徹底して追及したところはほぼない。
昨年9月の英国の金利急騰「トラス・ショック」を目の当たりにしても、日本人は目が覚めない。あれは、英国だけの話ではない。明日の日本の話だ。
財政拡大を掲げて保守党総裁選を勝ち抜いたトラス前首相は、ポンド急落と英国債の暴落という市場の反乱によってわずか45日間で退場した。その後を継いだリシ・スナク首相は、財政安定化政策を取らざるをえなくなった。それでも、英国経済は40年ぶりのインフレ率を記録するなど悪化の一途をたどっている。今月の英国のインフレ率は11%に達するという。英国在住の私の後輩ジャーナリストは悲鳴を上げている。
財務省のHPに「答」が書いてある
では、最後に、財務省のHPの「Q&A」を転載して、この記事を終わりにしたい。
【問】
日本が財政危機に陥った場合、国債はどうなりますか?
【答】
仮に財政危機に陥り、国が信認を失えば、金利の大幅な上昇に伴い国債価額が下落し、家計や企業にも影響を与えるとともに、国の円滑な資金調達が困難になり、政府による様々な支払いに支障が生じるおそれがあります。
そうした事態を招かないよう、財政規律を維持し、財政健全化に努めていく必要があります。
【注】今回の記事は、「Yahoo!ジャパン」個人欄にも寄稿しました。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。