TAX SPECIALIST羽山 徹の税金をはじめとしたお金の話あれこれ Vol.14 「米国の公的年金(Social Security Benefits)」について後編

問④:米国年金の受給資格がある方が日本に帰国した場合、どのような制限があるのでしょうか?

解答:現在のさまざまなルールを鑑みながら言えることは、米国公的年金の受給資格がある方は、日本に帰国した後も、これまで同様年金を受け取ることができます。仮に、日本に帰国後永住権を放棄して、米国の非居住者になったとしても、米国公的年金はWEP以外の減額をされることなく受け取れます。例えば、非居住者になったからといって「自動的」に米国政府に源泉徴収されることはありません。さらに、非居住者の方で年金継続受給のために、いちいち半年ごとに米国に戻って来る必要もありません。また、米国政府に対し、受給者たる自分が「米国非居住」であることを開示する(Form W8BEN などの書類の提出による)ことで、それ以降受け取る米国公的年金は、日本政府に対してのみ税金を払うこととなります(日米租税条約の特典)。

問⑤:帰国後も米国年金を受け取るために市民権を取得しておかないと、帰国後一部が天引きされたり、米国に戻ってこなくてはならないとか、いろいろ不利になるので、日本に帰国して米国年金を受け取るならば、市民権を取得した方が良い、とアドバイスを受けましたが、それは間違いですか?
解答:誤解を恐れずに言えば、そのようなアドバイスは事実に反するものです。米国年金受給資格を有する米国の非居住者(永住権を放棄して日本に在住している人を含む)が年金受給を申請すると、米国市民権の方と同じ扱いの年金を受け取ることができます。源泉徴収に関しても、強制はされず、自分から申告しない限り源泉徴収されることはありません。従って、米国年金の受け取りのためだけに、帰国前に市民権を取得する必要はない、と言えます。日本は米国と租税条約や年金協定などを結んでいる国なので、例外規定国としてさまざまな特例が認められています。なお、米国の非居住者が米国公的年金を受け取ると、年間の受取総額が記載された「Form SSA-1042S」が、SSAから日本在住の本人と、日本の国税庁宛に発行されている模様です。この結果、日本の国税庁はその金額を知る立場にありますので、米国の受取年金総額を計上した確定申告を日本でなさることを、くれぐれもお忘れなく(米国非居住者は、米国では米国公的年金は非課税になりますから(上記問④解答を参照)、日本でも申告しないと「脱税行為」とみなされます)。

問⑥:ところで、受給した米国年金は米国確定申告上、全額が課税の対象なのでしょうか? それとも全額が非課税なのでしょうか?
解答:基本的には、課税の対象の収入と言えます。しかし、全額が課税の対象となることはありません。ちなみに、年間で受け取った年金額の半分と、他の所得との合計額が、独身者で申告する場合で2万5000ドル以下、また夫婦合算申告する場合で3万2000ドル以下の場合には、どちらも年間で受け取った全額が非課税扱いとなり、税金を払う必要はありません。一方、これらの基準額を超えた方で、複雑な計算式の結果、課税対象の所得と認識されても、年間を通じて受け取った年金額の最高85%が、課税対象収入となります。すなわち、残り15%は非課税扱いです。

問⑦:日本に帰国後も、米国市民権や永住権を放棄しないで住んでいる場合の注意点をまとめてください。
解答:このような方々は、米国に住んでいなくても米国税法上は「居住者」扱いとなります。従って、米国滞在中と同じように、確定申告をしなければなりません。使用する様式はForm 1040です。日米租税条約の特典を利用することはできません。その結果、日本と米国に対してそれぞれ居住者として毎年(放棄するまで)確定申告をすることになります。そして、日米の申告書での課税対象収入は、全世界源泉収入(日本の源泉収入+米国の源泉収入を加えた額:日本の公的年金受給額+米国公的年金受給額を含む)です。ちなみに、同じ全世界源泉収入に対する税金を日米両国に支払う形となり、二重課税が生じてしまいますが、これを回避する、外国税額控除(Foreign Tax Credit)の活用が日米両国間で認められています。
(次回は「米国の老齢年金、家族年金、遺族年金について」です)


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羽山 徹
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