連載954 なぜ倒産させないのか?
若者を食い物にして生き残る日本の大学 (上)
1、2月は受験シーズン。すでに大学入学共通テストは終わり、各大学の一般選抜試験が始まっている。合格発表は今月末だ。テレビ報道で、受験生の試験会場に行く姿、インタビュー姿を見るにつけ、胸が痛む。なんで、こんな馬鹿げたことが続いているのかと、怒りさえ覚える。
すでに日本の大学は、あらゆる面で崩壊している。少子化の影響もあるが、教育内容が時代にまったく合っていない。そのうえ、経営を成り立たせるために、若者たちを「奨学金」という名でごまかした学生ローンで借金漬けにしている。
あいも変わらぬ受験シーズン報道
報道によると、1月14日、15日に実施された今年の「大学入学共通テスト」(以下共通テスト)は、トータルで711大学が参加した。内訳は、国立の82大学、公立の94大学と、私立の535大学。国公立は100%だが、私立は89%の参加に止まった。
これは、以前のセンター試験の時代と比べて、受験の仕方が変わってきたからだ。その背景には、種々の問題があるが、それは後で説明したい。
ともかく、今年の共通テストは終了し、いまは一般選抜試験に突入、受験シーズンはピークを迎えている。この先、受験生は合否が発表される今月末まで、悶々とした日々を送らねばならない。しかし、晴れて志望校に合格したからといって、未来が開けるわけではない。
毎年、受験シーズンの報道はおざなりで、ほぼ年中行事。雪が降って電車が遅れると「大変だ」と言って、試験会場に駆けていく受験生の姿を映す。そうして、何人かにインタビューして感想を聞いている。
そういうテレビ画面を見て、いまの若者たちは本当にかわいそうだと思うのは、私だけではないと思う。なにも考えていない人間は、昔とさほど変わらない受験シーズンの光景を、ひとつの風物詩と捉えるかもしれない。しかし、いまその風物詩は崩壊寸前だ。
どんどん進んでいる「入試」離れ
私は、かつて教育関連書籍を編集したことがあり、大学教師、教育評論家、大学ジャーナリストに知己が多い。彼らの話を総合すると、今年の共通テストの最大の傾向は、国公立大と併願しない私大専願の受験生に、共通テストを受けない者が増えていることだという。
「共通テストと出題傾向が違う一般選抜試験対策を両立させるのは時間の無駄と考えているからですよ。
第1志望が私立なら、そこの一般選抜だけに全力を集中したほうがいいに決まっていますからね。だから、早稲田の政経のように、一般選抜で外国語と国語、数学、地歴公民、理科の共通テスト科目を使っている場合は例外として、共通テスト利用入試をしていない、たとえば慶応などだと、共通テストを避ける傾向になるのです」
もう一つ最近の大きな傾向は、学校推薦型選抜、総合型選抜(旧AO入試)で入学する学生が、大学入学者全体の約半数を占めるまでになっていることだ。
その結果、かつてのような一般入試の受験戦争は下火になった。
「ただし、難関私大の一般選抜の難易度は逆に上がってしまいました。また、以前は、AO入試は“ザル入試”と言われていましたが、いまは出願に必要な成績のレベルを上げたり、小論文を科したりしているので、受験そのものが変わってきていますね」
とはいえ、これは一定レベルの有名大学の受験現場から見た傾向であり、その背後にはもっと大きな変化がある。それを引き起こしている最大の原因は、受験生が年々減るという少子化であり、日本の貧困化だ。
さらに、日本の高等教育がもはや時代に合わなくなり、世界の大学のレベルから大きく遅れをとっているということも大問題である。(つづく)
この続きは3月7日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。