連載964 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (1) ディサンティスとはいったい誰か? Who,s Who? (下)

連載964 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (1) ディサンティスとはいったい誰か? Who,s Who? (下)

 

繰り返される“口撃”挑発には乗らない

 トランプは、ディサンティスのことを、演説がつまらないとのニュアンスを込めて “Ron DeSanctimonious”(聖人ぶったロン)と中傷し始めた。これまで、対立候補に対しては、ニックネームをつけて叩き潰してきたトランプだが、このネックネームは言いづらくて失敗作である。
 今年になってトランプの“口撃”は、エスカレートした。
 トランプは1月28日 メディアの取材に答えて、ディサンティスの新型コロナに対する立場は一貫性に乏しいとし、「ヤツは「歴史を書き換えようとしている」と批判した。
 それは、当初、ディサンティスが熱心なワクチン支持派だったからだ。
 ところが、ディサンティスは、コロナ規制に反旗を翻して、マスク着用義務やワクチン接種に積極的ではなくなった。そうして、規制を解除していった。
 しかし、自身はこっそりとジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを接種していたことが明らかになった。
 トランプは「彼のよくないところは全部知っている」と、さらに“口撃”したが、ディサンティスは挑発に乗らなかった。
「新型コロナのような危機対応では、公選職にある者はあらゆる判断をしなければならない。ただ、その判断に対しては市民が選挙で審判を下せる。私は(知事に)再選された」と強調し、“口撃”を交わしたのだ。
 ディサントスはトランプと違って、まだ2024年大統領選への出馬を宣言していない。だから、いま動くのは不利とみて、よけいな発言を控えている状況のようだ。

すでに始まってしまった大統領選

 2024年までまだ2年もあるのに、もう大統領選挙とは早すぎるのではと見る向きも多い。しかし、今回の大統領選は、トランプが昨年11月に早々と出馬宣言し、それを受けてバイデン大統領も再選に意欲を見せたため、例年より動きが早い。
 例年なら、民主、共和両党の大統領候補を選ぶ予備選に向けた動きは、大統領選挙が行なわれる前年の春から夏にかけて本格化する。
 これまでのパターンでは、まずはテレビ出演や党の催しなどで立候補を表明し、表明した候補者たちがテレビ番組に呼ばれて、お互いに政策をぶつけ合って討論する。そうして、じょうじょに絞られていく。
 ところが、今回は前大統領と現大統領のどちらも出る気のうえ、前大統領の人気が落ちて、共和党が分裂気味になったことも、大統領選の動きを早めている。

次々にトランプ支持を降りた富豪たち

 トランプの人気が落ち、そこにディサントスという新星が登場してきたことも、共和党の分裂を加速させている。トランプについていくほうが有利と考えてきた議員たちが、どちらか迷い、口をつぐむようになったからだ。
 トランプは風向きが変わってきたことにあせったのか、昨年暮れに、出馬宣言に合わせて、自分のデジタルトレーディングカードを発売した。
「アメリカにはスーパーヒーローが必要だ」と、自らスーパーマンや宇宙飛行士など、アメリカンヒーローの姿に扮して、1枚99ドルで販売し、4万5000枚が即時完売。人気健在を見せつけた。
 しかし、スーパーマンに扮したトランプの姿は不評で、「いまさらなんだ」と、顔をしかめた支持者も多かった。
 もとより、共和党穏健派(エスタブリシュメント)は、トランプを嫌っている。そのため、ディサンティス待望論をメディアに流して、トランプに揺さぶりをかけている。先だって、トランプ支持のケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出)の連邦下院議長選出を妨害したのは、彼らである。
 トランプ支持からいち早く抜け出し、ディサンティス支持に回った富豪たちもいる、その筆頭はイーロン・マスクで、最近では大富豪のチャールズ・コークが支援する保守系政治団体「アメリカンズ・フォー・プロスペリティー」(AFP)が、トランプ支持を止めると表明した。著名投資家のピーター・ティールもディサンティス支持を打ち出している。
 大手投資会社ブラックストーンのCEOで、共和党の大口献金者であるスティーブン・シュワルツマンもトランプ支持をやめ、共和民主両党とも「次の世代のリーダー」を選ぶ方向に動く必要があるとの考えを表明した。
 メディアでは、「ウォール・ストリート・ジャーナル」と「ニューヨーク・ポスト」が、これまで一貫してトランプの再出馬に難色を示してきた。

(つづく)

この続きは3月21日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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