前回に続き、故人の死後、検認裁判所での手続後の財産管理・処分を説明します。
●Estate Account エステートの口座開設、故人の財産の回収、負債・経費の支払
遺言執行状・遺産管理状(略称 Letters)が発行され、EIN(個人の社会保険番号にかわる、エステートの納税者番号)を取得し、エステートの口座を開設します。エステート口座に故人の財産を集め、そこから負債・経費を支払います。ニューヨークでは、債権者は、Lettersが発行されてから7カ月以内に債権がある旨を知らしめるべきことになっています。
●Estate Tax Returns(遺産税申告書)の提出、Estate Tax (遺産税)の支払/それに係る財産の死亡時の価額の調査
財産の額により(死亡年度の控除額を超えるか)、また、非居住者の場合はそれに加えて財産項目により(米国に所在する財産の特定)、必要となれば、死後9カ月以内に、連邦・州に遺産税申告書を提出、遺産税を支払います。そのために、共同名義を含む故人名義の(場合により全世界の)財産・負債のリストを作成し、故人の遺産の死亡時の価額を調べる必要があります。不動産など、項目によって必要があれば、鑑定を取得します。銀行口座の場合は、死亡時のステートメントが必要です。遺言執行者・遺産管理人の承諾により、雇用された弁護士の事務所が金融機関などに連絡することができます。
●租税当局(IRS内国歳入庁・州)からClosing letter(クロージングレター)
連邦・州に遺産税申告書を提出した場合、受理されればclosing letterとともに、財産を処分して良い旨の書類 transfer certificate / release of lienが発行されます。特に連邦の場合、これに1年ほどかかる場合があります。州の方は、多くの場合、多少早いと言えます。提出した遺産税申告書に対しAudit(監査)が入る場合は、更に時間がかかります。
●遺産の分配
債権者の通知期間(ニューヨーク州ではLetters発行から7カ月)が過ぎ、税金、負債、エステート管理費用を払ったうえ、残った遺産は、遺書があれば遺書に従い、遺書がなければない場合(intestacy)のニューヨーク州法に従って分配されます。分配に際しては、司法会計報告手続を行わない場合は通常、受益者全員から、 Receipt and Release という遺言執行者・遺産管理人の責任を免除する旨の文書に署名したものを受領し、責任が免除され次第、分配を行います。必要があれば、適当な時期に一部の分配を行います。
●受認者所得税申告書の作成、提出
エステートに所得があれば、会計士などにForm 1041(受認者所得税申告書)の作成、提出を依頼する必要があります。
●裁判所へ、Inventory of Assets財産のリストを提出
検認裁判所へ、Inventory of Assets(財産のリスト)を提出し、申請料金の過不足を清算します。裁判所を通じての正式な judicial accounting(司法会計報告手続)を行わない場合、通常これを提出することをもって、裁判所の手続は終了となります。ニューヨーク州では、judicial accountingや特定の申請が行われない限り、裁判所からは特に正式にエステートを終了する旨の書類は発行されません。
注意:遺産管理手続に必要な書類の署名には、公証が求められるものが多いです。日本において米国式の公証を行う場合、在日米国大使館・領事館での領事公証か、公証人役場でのApostilleアポステイーユ公証が必要となります。
※上述はあくまでも一般的な説明であり、個々のケースによって手続な どは異なりますので、必ず法律専門家に相談するようお願いします。
滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
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