連載968 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(中2)

連載968 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (2) ミニ・トランプか? それともリアリストか?(中2)

 

「ワクチン懐疑論」からメーカーを提訴

 ワクチン、マスクより自由というのが、共和党の立場であり、ディサンティスにとって譲れない確固たる信念なのだろう。結局、知事選でディサンティスは圧勝したのだから、州民はディサンティスの方針を支持したと言える。
 2021年暮れに、フロリダの経済が全米のどの州よりも先に回復し、旅行者もコロナ禍以前より増えたことが判明した。2022年、フロリダはかつての活気を完全に取り戻した。
 いまとなれば、全米でもう誰もマスクなどしていないし、ワクチン接種も下火になっている。それを思うと、ディサンティスはついていたとも言える。なにしろ、コロナは変異を繰り返し弱毒化してしまったからだ。
 ディサンティスは、2022年12月中旬、ファイザーとモデルナが新型コロナウイルスワクチンの有効性を誇張する「虚偽の主張」をしたとして、司法当局に調査することを提訴した。
 このことから言えるのは、ディサンティスが、当初からファイザーとモデルナの両方の「メッセンジャーRNAワクチン」は効かない。効かないばかりか副作用があると思っていたことだ。このような「ワクチン懐疑論」は、陰謀論者が拡散したものだが、まだ科学的には証明されていない。

不法移民を「聖域都市」に送りつける

 「ミニ・トランプ」ディサンティスの真骨頂は、移民不寛容政策である。トランプがオバマの移民寛容政策を忌み嫌ったように、ディサンティスも忌み嫌った。
 もともとディサンティスは、連邦下院議員時代からオバマ政権の移民政策に批判的で、2015年には国外退去処分になった人間がアメリカに再入国した際の罰則を強化する法案の共同提出者となっている。州知事1期目の2019年には、「反聖域都市法」を制定している。
 聖域都市(sanctuary city:サンクチュアリ・シティ)とは、不法移民に寛容な自治体を指し、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDCなどが代表的。いずれも、市長は民主党だ。
 トランプは、「民主党が危険な移民法を変えたがらないから、不法移民を聖域都市だけに移住させろ」と息巻いたが、それをディサンティスは実行した。
 2022年11月の中間選挙前、テキサス州知事のグレッグ・アボットは、不法移民をバスに乗せ、ワシントンDCなどの聖域都市に送りつけた。これと同じように、ディサンティスは不法移民を飛行機に乗せ、フロリダからマサチューセッツ州マーサズ・ヴィニヤード島に移送したのである。(*前回配信記事で、バスで移送したと書いたのは、私の勘違いでした。ディサンティスは「飛行機」でマーサズ・ヴィニヤード島に移民を送り込みました)

なにも知らされずに着いた所はセレブの島

 マサチューセッツ州は民主党の牙城であり、マーサズ・ヴィニヤード島は、富裕層、セレブの別荘地として有名だ。クリントン元大統領は、この島のサマーハウスで妻ヒラリーと娘チェルシーと毎年夏を過ごした。オバマ元大統領もサマーハウスを持っている。セレブでは、カーリー・サイモン、ウォーター・クロインカイト、ジェイムス・タ
イラー、ポール・マッカートニーなどが、夏の住人として知られている。
 不法移民をこんなところに勝手に送りつけたのだから、それは民主党に対する明らかな“嫌がらせ”、選挙目当ての“パフォーマンス”と批判されも仕方なかった。
 実際、不法移民のなかには、自分が州外に移送されるということをまったく知らなかった人間や、到着先で入国書類を受け取れるという嘘によって騙されていた人間が多くいた。彼らはみな、マーサズ・ヴィニヤード・コミュニティセンターのパンフレットを手にしていたが、到着した空港からセンターまで2マイルを歩いて移動させられた。

(つづく)

この続きは3月27日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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