世界中のデザイナーが注目する、日本のものづくりの繊細さ。ニューヨークを拠点にするトップデザイナーたちは、そのインスピレーションを得るために、訪れる場所があります。それはアポイントメント制のギャラリー「スリ(Sri)」。Stephen Szczepanek氏が7000点を超える博物館級の個人蔵のキュレーターを経て、2001年にグリーンポイントでスタートしたもので、本人私蔵のコレクションである日本伝統のテキスタルを展示販売しています。「フランスの運営団体と協力し、私の収集の一部がBORO展とし、ヨーロッパ各地の博物館で回覧されています。ポルトガルのリスボンを経て、次はドイツのコロン、フィンランドの都市を調整中で、最後にはパリに行く予定」と、世界も注目しています。
日本の民芸作品の素晴らしさを英語で切々と語る氏。私も知り得なかった幅広い知識をもって世界に日本の素晴らしさを伝えていることに、自分の無知さと彼の情熱に胸を打たれました。氏は収集の幅を広げるため、毎年春と秋に2回、日本に足を運ぶといいます。
「今年の4月のこと、福井県の小浜市で目を疑うほど素晴らしい裂き織りと運命的な出会いをしました。秩序をもって無数に施された刺し子ステッチにも麻糸を使い、継ぎあてた藍染めの布全てが、美しい青の濃淡で完成されている几帳面な作品。その圧巻の仕事量とものづくりへの情熱に一瞬で目を奪われました。おそらく丹後半島周辺のどこかで、冬の間や夜間に妻が長い時間をかけて、漁師の夫のために作ったと推測できます。『もったいない』という考えで身の周りにあるものを再利用した様は、戦争のため深刻な物資の不足い陥っていた20世紀初頭のものだと予想がつきます。実際に自分で羽織ってみると分かるでしょうが、丈が長く保温性があるにも関わらず、動きやすい。シルエットは今のモードファッションにも通じる何かさえ感じます」。興味深いことに農村や漁村などの決して裕福とは言えない地から「お宝」は見つかるといいます。
彼が同じように情熱を奪われたものに、東洋と西洋の文化の交わりがまざまざと見えるコレクション(写真上)があります。「着物や浴衣の生地を使って、西洋の服飾技術で作ったものも集めています。呉服屋からテーラーとなり、着物の反物をシャツやベストの後ろ身頃に使用したり。さらにはテーラーで仕立てたトラウザーズの裏に不要な和素材で丁寧に何重にも継ぎあてを施したものなど、当時の人々によって大切に着られていた様子が見てとれます」。
フリー・ジャーナリスト
Aya Komboo
www.ayakomboo.com
日本では数々の出版社で経験を積み、フリーランスへ転身。2006年よりロサンゼルスへ渡米し、現在はニューヨークを拠点にファッション/カルチャー誌などで活躍している。