連載974 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (3) もう始まっている選挙レース、勝ち抜くのは誰か? (完)
共和党内で高まるトランプ排除の動き
ディサンティスの登場で、共和党の穏健派はトランプを積極的に排除しようとする動きを見せるようになった。その一つの例が、トランプの熱心な信者である共和党全国委員長ロナ・マクダニエルの再選阻止だ。
こうした共和党内の穏健派と強硬派の対立を象徴するのが、ケヴィン・マッカーシー(カリフォルニア州選出下院議員)の下院議長選出が、異例の15回投票で決まったことだろう。これは、「フリーダム・コーカス」(自由議員連盟)の議員たちがトランプの協力者であるケヴィン・マッカーシーを嫌ったからだった。
こうした共和党内の対立を見ながら、これまでトランプを支持してきたパトロン(後援者)たちのトランプ離れが進んでいる。その筆頭がイーロン・マスクで、早々とディサンティス支持を打ち出した。フリーダム・コーカスのパトロンであるコーク財閥のチャールズ・コークも、ディサンティス支持を打ち出した。
ウォール街でも、トランプ離れが進み、著名投資家のピーター・ティール、大手投資会社ブラックストーンのCEOで、共和党の大口献金者であるスティーブン・シュワルツマン、ヘッジファンドのシタデルの創業者で資産家のケン・グリフィンなどが、ディサンティス支持を打ち出している。
反トランプのリンカーン・プロジェクト
共和党系のスーパーPAC(特別政治行動委員会)「リンカーン・プロジェクト」(The Lincoln Project)は、反トランプを掲げて設立され、いまもトランプを非難し続けている。
トランプが掲げる「MAGA」(Make America Great Again:アメリカを再び偉大に)は、単なるスローガンでマヤカシであるとし、議会襲撃事件の後には、「MAGAのアメリカか、民主主義のアメリカか」と有権者に迫った。
さらに、「ドナルド・トランプの犯罪、腐敗、腐食性に直面した私たちの国の生存と愛国心は、単なる政治よりも高い使命だ」とメッセージした。
リンカーン・プロジェクトは、トランプを排除するため、政治資金を集めてきた。選挙資金を追跡している独立系団体「オープン・シークレッツ」(www.opensecrets.org)によると、リンカーン・プロジェクトは2020年のアメリカ大統領選挙で8740万ドル、2022年の中間選挙で2915万ドルの資金を集めたという。
このリンカーン・プロジェクトの活動により、ディサンティスが有利になるかと言うと、そうではない。なぜなら、リンカーン・プロジェクトはディサンティスをトランプのミニ版として、その政治姿勢を批判しているからだ。
昨年、ハリケーン「イアン」の被災後、ディサンティスは、シャーロット、サラソタなどの3郡に期日前投票の期間延長を認めた。これをリンカーン・プロジェクトは“独裁政治”と非難した。それは、この3郡には共和党の有権者登録者が圧倒的に多いからである。
リンカーン・プロジェクトはディサンティスが「自然災害を政治化した」と批判したうえで、「これは民主主義ではない。独裁政治だ」と訴えたのだ。
「CPAC」次第で共和党候補が絞られる
「CPAC」(Conservative Political Action Conference:保守政治行動会議)と呼ばれるアメリカの保守派の催しがある。アメリカ保守同盟(the American Conservative Union)が主催する討論集会で、過去に多くの保守派の大統領候補がスピーチした。ただし、トランプが政治の表舞台に登場してからは、毎回、トランプ派の決起集会のようになっていた。
が、今年は様相が一変する可能性がある。
CPACは過去2年間、フロリダとテキサスで開催されたが、今年は首都ワシントンDCに戻り、3月1日~4日に開催される。そして、トランプと強硬派を排除する方向で行われる可能性があるというのだ。
となると、このCPACいかんで、その後の共和党の大統領候補がどうなるか、ある程度、決まる可能性がある。はたして、何人が立候補するのか? トランプはこのまま排除されていくのか?それとも盛り返すのか?
いまの時点は、まだなんとも言えない。
*今日はここで終ります。明日配信予定の最終回は、次期アメリカ大統領に課せられた問題点を整理し、次期アメリカ大統領がなにをすべきかを考察します。
(了)
この続きは4月4日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。