連載976 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (4) 次期アメリカ大統領はなにをすべきか? (中)

連載976 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (4) 次期アメリカ大統領はなにをすべきか? (中)

 

ミレニアル世代、Z世代が共和党を変える

 大多数の白人にとって自分たちがマイノリティになる社会は、受け入れがたい。そうした未来図に対する恐怖心が、分断・分極化を加速させているのはたしかだ。
 ただし、アメリカ社会の未来に関して、楽観的シナリオもある。それによると、共和党は変質せざるをえなくなり、アメリカは多様化を受け入れて若返るという。
 この楽観的シナリオでは、白人人口が5割を切ることは、心配するようなことではない。それよりも重要なのは、社会正義に対する意識が高くリベラルなミレニアル世代、Z世代という“新しい世代”が、今後、社会の主流になっていくことにある。この世代は、白人も黒人もヒスパニックもなく、多様性を受け入れて互いに協力しあって生きていくので、分断・分極化はスローダウンするというのだ。
 実際、若い世代ほど、人口に対する白人の割合が早く低下する。すでに、全米の18歳以下の人口は非白人がマジョリティになっている。これが進んでいくと、共和党は現在依存している保守系白人層から脱皮せざるをえなくなる。
 とくに共和党を支えた白人主体の「リリジャスライト」(キリスト教右派)は、10年前まで全米40州で保守層の中核を占めていたが、いまやそういう州は18州にまでに減っている。
 となると、共和党はトランプのような極右的ポピュリズムをいつまでもやっているわけにはいかない。そんなことをやっていると、弱小政党に転落してしまう。
 したがって、共和党は人口動態に合わせて党のスタンスを変えていくことになる。

世代交代と経済が大統領選挙の焦点に

 楽観シナリオでは、経済も発展する。
 それは、若い世代の台頭が市場を変えていくからで、人種構成の変化、社会の多様化を受け入れた市場からは、新しい価値観によるモノとサービスが生まれ、経済は発展していくというのだ。
 このような観点から見ると、次の大統領選挙の焦点は、世代交代と経済になる可能性が高い。バイデン、トランプの高齢者対決では、2024年に全人口の約4割に達する40歳前後から下のミレニアル世代と次のZ世代を合わせた“新しい世代”を取り込めない。
 すでに、これまで社会の中核を担ってきたベビーブーマーは、全人口の4分の1に減っている。
 民主共和両党とも、夏までに大統領選挙に出馬する候補者が出揃う。現在のところ出馬表明をしているのは、民主党はバイデン現大統領、共和党はトランプ前大統領とニッキー・ヘイリー元国連大使だけである。しかし、それだけで済むはずはなく、若い世代が名乗りを挙げるはずだ。
 その顔ぶれに関しては、前回の配信記事で紹介したので、ここではもう触れない。
 いつの時代も選挙戦の最大の争点は、経済である。とくに、“新しい世代”は、経済を重視する。となると、トランプのような大衆迎合のバラマキと富裕層減税は支持されない。バイデンも同じようなバラマキをやっているので、これも“新しい世代”には支持されないだろう。
 “新しい世代”は、教養レベルが高い。

中ロとの「新冷戦」にどう対処するのか? 

 次期大統領の最大の外交課題は、米中対決およびウクライナ戦争が引き起こした「新冷戦」にどう対処するかである。外交は内政とつながっており、アメリカは「世界覇権国」(world hegemon)でもあるから、これは非常に重要だ。
 今回の「新冷戦」がかつての「冷戦」と違うのは、対立する両陣営の経済が密接につながっていることだ。米ソ冷戦時には、モスクワや北京にマクドナルドがなかったように、世界経済は両陣営で分離していた。しかし、いまやグローバル化のなかでサプライチェーンはつながり、そのなかでヒト、モノ、カネが活発に動いている。
 もはや、これを完全に断ち切ることは難しい。つまり、どちらかの陣営が片方の陣営を徹底して打ち負かすというような結末は想像しがたい。
 さらに「新冷戦」においては、ウクライナ戦争が起こったために中ロ接近という、米中対決だけでは済まない構図になってしまった。こうなると、アメリカにとって大事なのは、同盟国をどのようにつなぎとめ、同盟関係を維持していくかである。
 最悪のシナリオは、かつての冷戦ではけっして起こらなかった中ロ側の経済が西側陣営を上回ってしまうことだ。米中逆転の未来シナリオはいまも生きている。それが2030年代に起こりえるなら、次期アメリカ大統領は、その芽を徹底して削いでいく必要がある。

(つづく)

この続きは4月6日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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