連載977 最有力候補ディサンティスと次期大統領選 (4) 次期アメリカ大統領はなにをすべきか? (下)
21世紀の覇権の源泉は「情報」
アメリカが「新冷戦」に負けるということは、これまで保持してきた世界覇権を失うことを意味する。そうなると、世界は多極化し、民主主義、自由主義は力を失う。つまり、そうした世界は無秩序で、混沌としたルールなき世界である。
そこで、覇権とはなにかと考えると、それは、英国の政治学者スーザン・ストレンジが述べたように、「国際社会においてゲームの設定をし、ルールを決め、それを強制できる権力」と言うことができる。つまり、世界覇権国は、ルールメーカーであり、それゆえにあらゆる面で最強のパワーを持っている国である。
ただし、そのパワーの源泉は、かつてのように軍事力や工業力、それらを含めた経済力ではない。もちろん、経済力はもっとも重要だが、それとともに、この21世紀で重要なのは「情報力」である。
いまの世界を動かしているのは、GAFAのようなビックテック企業群であり、価値を生み出すのは情報である。現代資本主義はその意味で「情報資本主義」であり、情報を制することが覇権につながると言っていい。
そのため、次期アメリカ大統領は、ネット、IT、ハイテクに精通しているべきだろう。トランプのような、旧来の地政学しか知らない人間では、次期アメリカ大統領は務まらない。
ハーバード大教授の助言
ハーバード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授が、昨年『フォーリン・ポリシー』誌に書いたコラムが、アメリカ政府関係者の間で評判になった。
「Do the right thing. It will gratify some and astonish the rest」(正しいことをせよ。そうすれば、一部は満足し、残りは驚くだろう)というコラムで、ウォルト教授が言いたかったのは、アメリカは“現実主義”に立って行動せよということだ。
世界は大きく変わっている。かつての冷戦終了時、アメリカは世界で唯一の超大国となった。その結果、アメリカ型の民主政治、資本主義、市場経済、人権、法の支配を最上のものとして世界に広めることが、アメリカの使命・運命(manifest destiny)と再確認して、これまで行動してきた。
しかし、もはやアメリカの国力は衰え、中国などの追い上げにあっている。しかも、介入したイラクやアフガニスタンなどでは失敗続きである
ならば、アメリカは「自分たちは特別だ。神に選ばれた人間たちだ」という「例外主義」(exceptionalism)、「選民思想」(idea of ~ being a chosen people)を捨てて、より現実を見るべきだ。現実主義で行動するべきだと、ウォルト教授は説いたのである。
レーガンのように大化けする可能性
現実主義という観点に立つと、民主党の極左、共和党の極右も、完全に現実を無視した政策を唱道している。民主党の極左は、理想主義に燃えすぎだし、共和党の極右はポピュリズムで民衆を扇動することばかりやっている。理想主義でもポピュリズムでも、次期大統領は務まらない。
となると、共和党の新生ディサンティスは、かなり有力な大統領候補と言える。「ミニ・トランプ」と言われても、すぐに感情がむき出しになるトランプと違い、ディサンティスは冷静でしたたかだ。それに、トランプよりはるかに頭が切れる。
もし彼が共和党の大統領候補になれば、民主党もバイデンのような高齢者ではなく、若い対抗馬をださざるをえなくなるだろう。
保守メディアがディサンティスに期待しているのは、ロナルド・レーガンの再来だ。レーガン大統領は、大統領選挙前は、極右のトンデモ政治家と思われていた。それが、大統領になると変身し、現実路線を歩み、ついには冷戦を終結させた。ディサンティスは第二のレーガンにならないとは、言い切れない。
はたして、誰が次期アメリカ大統領になるのか? 大統領選挙は、“ロングロングウエイ”である。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。