連載985 脱炭素社会、EV時代が来るなら 知っておきたい「リチウム」争奪戦の現状 (上)

連載985 脱炭素社会、EV時代が来るなら
知っておきたい「リチウム」争奪戦の現状 (上)

(この記事の初出は2023年3月14日)

ここに来て、EVシフトが一段と進もうとしている。ルノーが日産との資本提携を見直したのも、その一環と言える。そこで、今後予想されるのが、EVを動かすための電池(バッテリー)に絶対に必要な物質「リチウム」の争奪戦が激化することだ。この2、3年、EVの普及が進むにつれ、リチウムの価格は高騰し続けている
 しかし、“EV後進国”の日本にいると、そんなことにまったく気づかない。リチウムばかりではない、コバルト、ニッケルなどのレアメタルは、今後の脱炭素社会に欠かせない物質である。

 

日産とルノーの資本提携見直しの意味

 2023年2月6日、日産自動車とルノーは対等な出資関係に合意したことを発表した。ルノーの日産への出資比率を43%から15%に引き下げ、双方の出資比率を15%にそろえることになった。そして、ここからが重要なのだが、ルノーが欧州で設立するEVの新会社に、日産が出資することになったのである。
 日産とルノーの資本提携は、1999年に経営危機に陥った日産にルノーが出資することで始まった。これにより、日産はいわゆるルノーの子会社になった。
 それから20年あまり、時代は変わった。日産は、カルロス・ゴーンによって再建され、なんと、EV技術でルノーをリードするまでになったのである。こうなると、主従関係が逆転する。今回の資本提携はその現れであり、イーブンの関係になった両社は、今後、いっそうEVシフトを進めて行くことになる。
 ともかくルノーは、日産・三菱が持つEV技術が欲しくてたまらなかった。それがないと、今回設立するEV新会社は成功しないと考えたと思える。
 そのため、フランス人のプライドの高さを捨ててまで、これまで見下して来た日産に譲歩したのだろう。

リチウムはEVコストの3分の1を占める

 先日のトヨタの社長交代劇もまた、世界で進むEVシフトへの対抗策である。ただ、トヨタはそれでも「全方位」を選択したが、そんなことをやっていると、さらに周回遅れになる可能性がある。
 というのも、EVの生産には、動力源となる「リチウムイオン電池」(LIB)に欠かせないレアメタルの一種リチウムが絶対に必要だからである。しかも、リチウムイオン電池は、EV全体に対するコストの約3分の1を占めている。
 EV化は、モジュール生産の進展により、これまでの自動車の生産構造を飛躍的に簡素化させた。そのため、新規参入が容易になったが、大量生産も可能になった。しかし、問題は電池で、それが安く大量に調達できない限り、大量生産による価格競争には勝てない。
 そのため、いま、世界のバッテリーメーカーとEV生産メーカーは、リチウム争奪戦を激化させている。

リチウム価格はこの3年間で4倍に

 リチウムは、現時点でほぼ代替が利かない。「ナトリウム電池」など、リチウムを使わない次世代電池の研究も進められているが、まだ実用化には程遠い。したがって、EV搭載の蓄電池はリチウムイオン電池の一択なのである。
 今年1月に「IEA」(国際エネルギー機関)が公表したクリーンエネルギー技術に関する報告書によると、2022年のリチウムの価格は2019年比で4倍に達した。
 コロナ禍によるサプライチェーンの混乱、ウクライナ戦争の影響も大きかったが、EVなどの需要が高まったのが最大の原因だ。リチウムばかりではない、コバルトやニッケルの価格も2019年比で2倍になった。
 昨年は、脱炭素化を目指す業界全体が、リチウム価格の高騰に苦しんだ1年だった。ただし、リチウムの生産量は年々拡大しており、これ以上の価格高騰はないと見る向きもある。実際、コロナ禍になる前までは、生産量が増加したので価格は下落していた。しかし今後、生産量を増やすためには、後述するが、さまざまなハードルがある。
(つづく)

 

この続きは4月20日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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