連載1002 「温暖化敗戦」確定か!
「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り (中2)
(この記事の初出は2023年4月18日)
そこまで原子力発電に頼っていいのか
「GX推進法案」における原子力発電の位置付けは、原発を日本のエネルギー政策の中核とし、カーボンニュートラルに向けて最大限に活用していくというものだ。そのために、次世代原発の建設を進めるほか、既存原発の60年超の運転も認めることになった。
日本政府は、2011年の東日本大震災時の「福島第一原発」の事故後、原発の新増設や建て替えを「想定していない」(=論外)としてきた。しかし、岸田内閣になって、この方針は突然転換された。
そのため、今回の「GX推進法案」は、安全性を高めた次世代原発の開発・建設なら承認するとしている。ただし、「廃炉を決定した原発の敷地内での建て替え」という条件が付いた。
既存原発の運転に関しては、電事法で規定する「原則40年、最長60年」を、原子力規制委員会の安全審査や裁判所の仮処分命令などで停止した期間にかぎって延長できるとした。これで、原発は事実上の60年超運転できることになった。運転期間の上限が来ても、そこに新炉をつくればさらに運転できるから、事実上、原発は永遠に止まらなくなった。
しかし、本当の意味で脱炭素社会をつくるなら、原発は老朽化したものからいずれ削減・停止していかなければならない。とすれば、なぜここまで原発に大規模な投資をするのか、その意味がわからない。
左翼的な原発反対派の主張は論外だが、再エネをここまで原発に頼るのは、脱炭素以外の別の理由があるとしか思えない。
すべての前提となる国連の「評価報告書」
世界各国で、カーボンニュートラルのための法整備が進み、再エネ転換が進んでいるが、その前提には、国連の提言、方針、警告がある。それが、「IPCC」(気候変動に関する政府パネル)の「評価報告書」(AR:AssessmentReport)だ。
ARはこれまで6回公表されていて、その最新版の「第6次評価報告書」(AR6)」は、つい最近、3月20日に公表された。すでに内容の多くは明らかになっていたが、改めてAR6を読むと、危機感に満ちていることに驚く。
「パリ協定」を踏まえた目標は、気温を産業革命以前に戻すために、上昇を1.5℃~2℃に抑えることだが、その達成は、現状では難しいとしている。
世界各国がこれまでに表明したカーボンニュートラル対策が成功したとしても、21世紀中には全地球的な平均気温が、上昇抑制の努力目標に達しない。目標達成のためには、2020年代にCO2の排出をどれだけ削減できるかにかかっていると、警告している。つまり、CO2の「正味排出ゼロ」の早期実現が必要であり、今後10年間が“勝負の10
年間”になると言うのだ。
この国連の警告を踏まえると、日本の「GX推進法案」の時間認識は遅すぎると言わざるをえない。「GX推進法案」では、後述するように、「カーボンプライシング」の本格的な導入を掲げているが、それは2030年代となっている。これは、欧米に比べるとあまりにも遅い。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。