連載1036 中国デカップリングは日本を確実に貧しくする。 耐えられるのか、日本経済? (中1)
(この記事の初出は2023年6月13日)
問題は利益をどの程度捨てられるか
中国で立ち上げた会社を売る場合、もっとも難しいのは、どこに売るか、その売却先が見つからないことだ。
中国進出日本企業の形態は、およそ「中外合弁企業」、「中外合作企業」、「独資企業」の3種類があるが、その大半は現地企業との共同出資によって設立した「中外合弁企業」である。
そのため、通常ならば、中国側の合弁パートナーに持分を譲渡すればいい。しかし、それに簡単に応じるパートナーは多くない。
なぜなら、彼らは会社の経営状態を、日本側以上によく知っているからだ。つまり、持分譲渡交渉で有利な条件を引き出すことは難しい。結局、買い叩かれて、中国で上げた利益を捨てざるをえなくなる。
かといって、合弁パートナー以外の譲渡先を見つけるのはもっと難しい。とくに、中小企業は、この点が最大のネックだ。
大企業にとっても、問題は同じだ。この4月に経済同友会の代表理事になったサントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は、「週刊ダイヤモンド」誌のインタビューで、次のように述べている。
「中国の生産施設を拡張すべきか判断しなくてはならない。当局に没収される可能性があることを承知のうえで、さらに投資すべきなのか——」「そのリスクを取るべきなのか、取るべきでないのか。取るとして、どの程度のリスクを取るのか。100億円規模の投資は見送ったほうがいいかもしれない。では50億円なら? これはありかもしれない。どのくらいまでなら没収されても許容できるかを判断する必要がある」
コロナ禍により撤退は加速する一方に
さまざまな問題を抱えながらも、日本企業の中国撤退は進んでいる。とくに、コロナ禍はこれを加速させた。なんといっても、中国のゼロコロナ政策は決定的に影響した。
帝国データバンクによれば、2020年から日本企業の中国撤退は加速しており、その数は940社に上っている。2022年現在で中国に進出している日本企業は約1万2000社とされ、この数は、過去10年間でもっとも少ない。
コロナ禍のはるか前から、「チャイナリスク」は存在した。この言葉が一般化したのは、2005年の「反日暴動」のときだ。成都、北京、上海などで起こった日本企業、日本商店に対する破壊行動は、生々しい記憶を残した。
2012年の尖閣諸島国有化にともなう「反日デモ」も凄まじかった。湖南省長沙にあった日系デパート3店は略奪暴動で、完全に破壊された。
こうした経緯のなかで、「チャイナリスク」は「チャイナ・プラスワン」となり、日本企業は生産拠点を中国以外(とくに東南アジア)にも持つことになった。そして、いまや「チャイナ・ゼロ」である。
中国で続いたロックダウンは、中国が自らがサプライチェーンを断つことになったのだから、撤退=チャイナ・ゼロが加速するのは当然だ。これに輪をかけたのが、ロシアによるウクライナ戦争である。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。