連載1054 認知症の進行を遅らせる
FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (完)
(この記事の初出は2023年7月4日)
発症の将来リスクがわかる2つの検査
私の知人の何人かは、以上のことから、次の2つの検査を受けている。ただ、この検査によって「将来発症するリスクがある」と判定されたある人間は、「受けなければよかったかもしれない」と言い、「不安が払拭できなくなった」とぼやく。ただそれでも、「やはり受けないよりは自分のことがわかったのでよかった」とも言った。
2つの検査とは、「MCIスクリーニング検査」と「認知症遺伝子ApoE検査」である。
MCIスクリーニング検査では、原因物質とされる「Aβ」を排除、またはその毒性を弱める機能を持つ血液中の3つのタンパク質を調べる。 費用はおよそ2万5000円。認知症遺伝子ApoE検査では、認知機能低下に関与する重要遺伝子ApoE遺伝子の型を調べて、認知症の発症リスクを推定する。こちらも、費用はおよそ2万円だ。
この2つの検査をすることで、将来、認知症が発症する可能性があるかどうかがある程度わかる。発症の可能性が高いとなれば、前兆(軽度認知障害)とされるMCI段階になる前から、発症しないよう、予防を心がけることができる。
ただし、「レカネマブ」ができた以上、もっと正確な検査が必要となり、それは、前記したアミロイドPET検査と脳脊髄液検査だ。アミロイドPET検査なら、「Aβ」の正確な数値がわかる。
心配なら、この検査を受けるしかない。
「レカネマブ」に続く「ドナネマブ」
アメリカの製薬大手イーライリリーも、「レカネマブ」と同じような抗「Aβ」の「ドナネマブ」(Donanemab)と言う名前の新薬を開発し、治験を重ねてきている。そして、この5月3日に、認知機能の低下を遅らせる結果を得たと発表した。
まだ、最終的な治験がどうなるかはわからないが、「レカネマブ」に続く認知症薬と期待されている。
このような動きを見ると、今後、認知症の新薬の開発競争が、「レカネマブ」の承認により、さらに本格化するのは間違いないと思える。いずれ、「レカネマブ」を上回る効果がある新薬も登場するだろう。
NIH(米国立衛生研究所)などが運営する臨床試験のデータベース「ClinicalTrials.gov」で、アルツハイマー型認知症に対して実施中の治療薬候補の臨床試験を検索すると200強がヒットする。
なんと、現在、世界中で、200強の認知症薬の臨床試験が行われているのだ。
これらの新薬がいずれ好結果を持って承認され、誰もがアクセスできる未来まで、はたして私は生きていられるだろうか。
現在、世界全体でアルツハイマー型認知症病患者は約6000万人にいると推定されている(統計のある国のみ)。高齢化が進めば、患者数は増増加の一途をたどる。
エーザイでは、「レカネマブ」の売上高が2030年に1兆円レベルに達すると見通している。そして、世界の認知症薬市場は300億ドルになると予測されている。
(つづく)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。