連載1081 活気づく「嫌中言論」 中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(下)

連載1081 活気づく「嫌中言論」
中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(下)

(この記事の初出は2023年8月29日)

 

新首都「雄安新区」建設が大洪水の原因

 中国の経済第失速に拍車をかけたのが、気候変動による大水害の発生である。いまや世界各地で異常気象が続いているが、首都・北京を襲ったのは、台風5号による歴史的な大水害だった。
 最大の被害が出たのは、北京の南西60キロほどにある涿州市で、洪水が街を飲み込み、街並みのほとんどが水没してしまった。
 河北省全体では死者29人、行方不明者26人、被災者は388万人と公式発表されたが、実際の被害はもっと大きいと見られている。しかも、この水害は習近平による“人災”で、正式な報道はないが、涿州では住民が抗議活動をしているという。啄州の上流には、華北最大の遊水池「白洋淀」があり、ここがあったなら、啄州は水没しなかったからという。
 遊水池「白洋淀」には、習近平の“鶴の一声”で、新首都とされる「雄安新区」が建設されている。5000億元(約10兆円)が投じられた中国最大規模のプロジェクトで、完成すれば人2000万人のスマートシティが誕生する。しかし、専門家は、遊水池をなくせば大洪水が起こると警告していたのである。

BRICS首脳会議で精彩を欠いた習近平

 最近の習近平は精彩を欠いているという。
 8月24日、南アフリカのヨハネスバーグで開かれたBRICS首脳会議の最終日、記者会見に臨んだ習近平は、「今回の拡大は歴史的だ」と強調し、「世界は新たな激動の時代を迎え、大きな再編が起きている。BRICSは国際情勢を形成する重要な力となっている」と述べた。
 しかし、その声と表情に、いつものようなリダーたる力強さはなかった。
 BRICS首脳会議の報道は、BRICSが加盟国を6カ国増やすこと、加盟申請国が増えていることなどに集中したが、じつは舞台裏ではBRICS5か国の足並みは乱れていたという。BRICS 5か国は中国がリダーシップを握ることを表面では認めているが、本当のところは利害が対立し、G7のようには結束はできていないというのだ。
 ロシアのプーチンはウクライナ戦争があるから仕方なく中国の言うことを聞いているだけ。インドにいたっては、中国デカップリング(=デリスキング)で、中国から退出する企業の誘致を狙って、虎視眈々と行動している。
 ほかの新興国も、中国失速で、中国から離れつつある海外の投資を呼び込めると、ほくそ笑んでいる。

中国リセッションは世界に及ぶのか?

 中国経済がどうなろうと、日本の「嫌中」派は「知ったことではない」ようだが、実際には「知ったことではない」ではすまされない。
 ともかく問題は、中国経済の大失速が世界や日本にどう影響するかだ。リーマンショックのような世界全体を巻き込むことになるかどうかである。
 すでに、世界の投資家は中国の株式市場から100億ドル(約1兆4600億円)あまりを引き揚げたと、ブルームバーグは伝えている。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは中国株に関する目標を引き下げた。
“投資の神様”ウォーレン・バフェットも、中国から投資を引き揚げた。ウォーレン・バフェットといえば、長期投資だと思いがちだが、短期売買もやっている。
 アメリカは、中国が世界覇権をアメリカから奪取しようとしていると気がついた時点から中国敵視政策を始めているので、中国大失速は歓迎である。
 ただ、ウォリー・アデエモ財務副長官は、8月16日、中国経済の失速は、「自らの政策選択が招いた結果だ」と批判しつつも、「それはアメリカと世界経済にとっては逆風である」と認めた。老化のため判断力が鈍っているバイデン大統領は、中国経済について聞かれると「時限爆弾だ」とだけ答えた。
 世界第2位の経済大国の経済が崩壊するとなれば、世界全体がリセッションに陥るのは間違いない。 


(つづく)

この続きは9月22日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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