マラケシュでミントティー①
モロッコを訪れたときの話。
サハラ砂漠の風が吹くアフリカの北西に位置するモロッコは、地中海に臨む南欧文化が潮風に香る。ここは喧騒と活気にあふれるアラブの王国。人、物、文化はエキセントリックに旅人を包み込んでしまう。一杯のミントティーにも、東西そしてアフリカの文化が溶け合って、この魅惑の国の食文化を彩っていた。
マラケシュ行きのフライトにトランジット時刻が合わず、結局パリの空港で一泊することにした。レストランもバーも閉まる時間だったので、そのままロビーでごろ寝でもしようと椅子に横になった。しかし妙にエキサイトしていてなかなか寝付けず、不思議の国へと飛び発ったときは半ば夢見心地だった。
マラケシュに到着後、とりあえず屋台と大道芸で有名なジャマエルフナ広場の付近でタクシーを降り、それから宿探しをすることにした。広場から傍にちょっと入ってみると、確かにそこは迷路のようだ。ともかく細い土壁の路地を辿って行くと小さなサインを見つけた。「リヤド」とある。一軒家の宿をモロッコではそう呼ぶらしい。民宿のようものだ。しかし、外観は何もないただの壁だったりする。ドアだけがやたらと重厚でちょっと怪しげだったが、とにかく開けて中に入ってみた。
「ハロー」
外からは想像できないが、3階建の建物の中はロの形になっており、空へ向かって吹き抜けになっていた。強烈な日差しを避ける工夫だろう。チェックインを済ませ中を探索してみた。小さな中庭を囲む内装は青を基調としたタイルのモザイクで床が覆われていて、これがハッとするほどに美しい。心地よい緊張感が漂う幾何学的な模様。繊細で鮮やかな色使いのモザイク。そして、囲まれた空間が醸し出す波長と、手のぬくもりが息づく工芸品の奏でる旋律を上手く調和させるモロッコの人々の感性。
中庭の真ん中には小さな噴水もあり、サラサラと湧き出る音が青いタイルに響いているのが沢のせせらぎのようにも聞こえてくる。はたしてここは、砂漠の中の深淵な森だろうか…佇んでいると、そんな気がしてきそうだった。
つづく
浅沼(Jay)秀二
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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