日本の相続税と米国の遺産税:その② 「日米相続条約」第4条の意義とその活用
前回、①米国の遺産税法上の納税者は、遺産を遺した「被相続人」である、
②米国遺産税法上の「居住者」とは、米国内に生活の基盤となる住所を有する(「Domicile」がある)者と判定される。よって、米国永住権を維持したまま日本に本帰国して市区町村から住民票を得て生活している場合は、米国に賃貸別件や別荘があっても、生活の基盤となる住所が米国に存在しない以上、非居住外国人(Non-resident alien)と判定されてしまう。これらの点を確認しました。
問:そして、その非居住外国人が米国内に財産を残して亡くなった場合、特に不動産資産を有していた場合は問題となる、とのことですが、どうしてでしょうか? 控除額は545万ドルはあるので、多くの場合遺産税の支払いは回避できるのではないですか?
解答:確かに、死亡時に米国市民権を有していたり、米国居住外国人(永住権保有者や就労ビザで米国に居住していた者)の遺産税控除額は、545万ドル(2016年度)です。しかし、非居住外国人に適用される控除額は、遺産税上6万ドルと定められています。ただし、非居住外国人が遺した米国生命保険会社からの受取保険金や米国内銀行預金残高などは、課税の対象外です。
問:では、数年前に永住権を持ったまま出身国に本帰国したり、他国に移住した方が、20年前にニューヨーク市に20万ドルで本人名義で購入した不動物件が100万ドルになった年に亡くなった、と仮定します。そうすると、100万ドルから6万ドルを差し引いた残り、すなわち94万ドルが遺産税の対象額となるのですか?
解答:その通りです。ただし、永住権をもったまま日本に本帰国した方や、日本に本帰国した後に永住権を放棄した方など、日本籍を有し日本に生活の基盤を持っている、米国遺産税上の「非居住外国人」には、日米で批准されている、いわゆる「日米相続・贈与条約」で定められている第4条が適用されます。
問:その内容はどのようなものでしょうか。
解答:当該条約第4条とは「日本の居住者で米国非居住者は、米国居住者が適用される控除額のうち、全世界財産額に占める米国にある財産額の割合分を利用できる」というものです。この条文を活用することにより、日本籍の米国非居住外国人は、米国の遺産税の支払いを軽減することが可能となります。
問:具体例で示してください。
解答:Aさんは、永住権を保持したまま日本に本帰国していた2016年に亡くなりました。このAさんが遺した財産の内訳は、日本国内での財産額が400万ドル、そして米国には100万ドルの不動産がありました。つまり、全世界財産額は500万ドルで、その内の100万ドルが米国遺産額でした。
問:この日本籍の非居住外国人であるAさんの控除額は、6万ドルではなく幾らになるのですか?
解答:Aさんに認められる米国遺産税の控除額は、以下の計算式で割り出されます。すなわち、米国居住者に認められる2016年度控除額(545万ドル)に、全世界財産に占める米国の遺産の割合を掛けた額と解釈されます。
Aさんの控除額=100万ドル/500万ドル × 545万ドル= 109万ドルとなります。この結果、この例ではAさんは米国内に100万ドルの自分名義の不動産を遺しましたが、いわゆる「日米相続・贈与条約」第4条によって、控除額が100万ドルを超えますので、米国では遺産税の支払いは無くなることになります。
問:こうした例で注意すべき点は何でしょうか?
解答:米国に遺した財産額の割合が、全世界の財産額の11%を割るような場合は、条約を活用した控除額が、一般非居住外国人に適用される6万ドル以下になりますので、お気を付けください。
Financial Advisor / Tax Specialist
羽山 徹
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