ニューヨーク日本人教育審議会
理事会会長 久保克之さん
帰国子女経験と海外での学び
Q1. 久保さんご自身も帰国子女であられますが、ご自身の海外での学校生活の思い出を聞かせていただけますか?
私は、小学校3年生からの3年間をアメリカで、高校時代の3年間をカナダで過ごしたのですが、小学校時代に英語を耳で覚えることができ、高校時代にロジカルシンキングや議論の仕方という2つの異なる教育段階をこちらで経験できたのは、非常にラッキーだったと思っています。
Q2. そのような海外での教育経験は、社会人になってから、どのように役にたったとお感じですか?
社会人にとって、コミュニケーション能力というのは、非常に重要ですよね。私の場合、カナダの高校時代、20人のクラスに、10ヵ国からきた生徒がいて、先生もオーストラリアの方でした。そのようなそれぞれがまるっきり異なるバックグラウンドをもったクラスメートと、豊富に議論し、意見がかみ合わない中でもおりあいをつけ、友人関係を作れたことは、その後の社会人生活においても極めて役にたっていると思います。
Q3.補習授業校にも通っておられたのですよね?いかがでしたか?
楽しかったですよ。 突然日本からアメリカの現地校に移り、やはり現地校では当初ストレスを感じました。そんななか週末の補習校では、不自由もなく言葉が話せましたし、先生との距離も近かったので、リフレッシュさせてもらうことができ、楽しかったです。しかも、現地校では学年があがると(日本の大学のように)各科目ごとに個々が教室を移動しないといけなくなり、学校での友達と過ごす時間が少なくなってしまったのですが、補習校では同じクラスの子と一日中一緒にいられたのも楽しかったですね。
Q4.そのようなご自身の補習授業校経験も踏まえて、こちらの日本人学校・補習授業校にはどのような教育を期待されますか?
カナダの高校時代からそうなのですが、海外の方々と議論する場合に、“(日本人の)おまえはどう思うのか?”とよく聞かれるのです。そうした時に、やはり自分が生まれ育った歴史、環境、文化などを理解し、考え方の“軸”をしっかりとしておくことが重要ではないかと思います。個々のお子さんの背景は違いますので、必ずしも考え方の“軸”が日本である必要はないと思うのですが、日本人学校や補習授業校においては、日本人としての“軸”を太くする機会になってくれるといいのではと思います。
Q5. 久保さんご自身も父親として、こちらでのお子さんの教育にも関わられてこられましたが、親としては、こちらの現地教育をどのようにお感じになりましたか?
お恥ずかしながら、子供の教育は妻に任せっきりだったので、あまり偉そうなことも言えないのですが。。。ただ、子供の教育をみていても、こちらの教育は、答えが決まっているものを学習するというよりも、答えのないものに対して、それぞれが自分の考え方をもち議論しあう、というところに特徴があるように感じています。ただ、日本で育ったお子さんたちは、それに慣れるのは大変だと思います。
だいぶ前ですが、息子が小学3年の時のプロジェクトをみていたら、絶対に小学3年の子供が1人でやり遂げられる課題ではないわけです。これは絶対に親と一緒になって考えることを前提にしているプロジェクトだなと感じましたし、こちらの教育においては、親が子供の教育に関わることを前提としているのだなと感じました。
Q6. 逆に、そのような帰国生を受け入れる側の日本の学校に対しては、いかがですか?
こちらの教育システムでは、一人一人が自分の考えを表現することが求められ、発言しないと欠席のように考えられますが、日本には日本の教育システムがあります。こちらの教育に慣れるのも大変ですが、日本でのシステムになれるのも同様に大変だと思います。今後の社会のグローバル化の必要性を考えても、それぞれの国で育った教育環境の違い – 例えば、アメリカでは、子供たちが身につけた積極的発言の習慣 – というものを、もう少し日本でも寛容にみてもらえるといいのではないかと思います。
Q7. 現在、学齢期のお子さんをもたれている保護者の方々にアドバイスはございますか?
保護者の方々にとっても慣れない土地での生活で大変かもしれませんが、積極的にお子さんの意見を聞いてあげ、一緒になって、世の中のできごとを含めて、身の回りの様々な話題を、多面的に考えるようにされるのがいいのではないでしょうか。さらには、保護者の皆さんも、学校や地域のボランティア活動などに関わり、ご自身で多様性を感じることも非常に大事なことだと思います。
Q8. こちらで子供を育てるということは、保護者にも、より子供へのコミットメントが求められるのですね?
そうだと思います。でも、最近はリモートワークがだいぶ普及してきているので、その点でも融通はきくようになってきているのではないでしょうか。私は、自分ではあまり子育ての役に立てませんでしたが、東京の部長時代から、部下には共働きの人も多くいましたし、なるべく家庭と両立できるようなフレキシブルな働きかたを勧めてきましたし、認めてきました。実際に、それで業務に支障はなかったですし。
当行(三井住友銀行)では今、ニューヨーク・オフィス従業員の9割はローカルの方々なのですが、ローカルの方々にとっては、家庭との両立やボランティアなどのコミュニティへの貢献などは、当たり前の話ですよね。
Q9. 自身の多様性を高めるために、現地コミュニティとの接点を増やすということにおいては、保護者ではない駐在の方々にもあてはまりますよね?
そうですね。ニューヨークということもあり、駐在員同士だけでかたまっていても、過ごすことはできます。ただ、上述のようにコミュニケーション能力を高める、多様性に対する理解力を高めるという意味でも、せっかくの機会なので、弊社の駐在員にも、いろいろとコミュニティとの関わりを増やすようにと言っています。そういう意味では、弊行の行員2名が、先日W校の運動会のボランティアをさせていただきましたが、非常にいい経験だったようです。当行自体としても、経済的貢献と同じレベルで社会的貢献を重視していますので、日本人学校・補習授業校も含めて、これからも積極的にボランティア活動に関わらせていただければと思っています。