連載1104 これでは日本は守れない!   防衛費増額の“支離滅裂”な使途(つかいみち)。 (完)

連載1104 これでは日本は守れない!
  防衛費増額の“支離滅裂”な使途(つかいみち)。 (完)

(この記事の初出は2023年9月26日)

整合性がない「イージス・システム搭載艦」

 最後に指摘したいのは、安倍政権下で反対にあって断念された地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策として導入される「イージス・システム搭載艦」である。
 これを2隻建造する費用として、関連経費も含めて合計約7900億円が計上されている。1隻は、2024年に建造を開始して2027年度末に就役、さらに2028年度末にもう1隻を就役させるという計画だ。
 イージス艦とは、レーダー探知システムとミサイルの装備より、航空機とミサイルの同時多数攻撃に対処できる、防空巡洋艦・駆逐艦のこと。しかし、今回、導入が決まった「イージス・システム搭載艦」は、基準排水量が約2万トン、最大艦長約210メートルという自衛隊の艦船としては最大規模のもので、従来のイージス艦とは似て非なるものである。ひと言で言うと「BMD」(弾道ミサイル防衛)全般を担う“浮かぶ洋上基地”とか。
 そのため、巡航ミサイル「トマホーク」はもとより、極超音速滑空兵器(HGV)も迎撃可能な対空ミサイル「SM-6」、脅威圏外から相手艦艇へ攻撃できる「12(ひと・に)式地対艦誘導弾の能力向上型」、ドローンによる飽和攻撃に対処する「高出力レーザー」なども装備するという。
 しかし、大きな問題がある。それは、「イージス・アショア」の代替案としての導入のため、「イージス・アショア」に搭載する「SPY7」(レーダーのシステム)延命に固執したことだ。となると、従来のイージス艦は「SPY-6」が採用されるので、2種類のイージス・システムを搭載した艦種が混在して、かえって混乱を招く可能性がある。また、運用コストも倍以上かかる。これには、軍事的整合性はまったくない。
 なによりも本格就役となれば、コストは、さらに跳ね上がる。別々の2系統のシステムの整備と維持管理、さらに、イージス艦隊を守るためには護衛艦隊も必要になる。このままでは、防衛費増額は青天井になりかねないというのだ。

なにもわかっていない武器輸出とミサイル防衛

 このように見てくると、日本政府、とくに自民党の国防族はいったいなにを考えているのか?本気でこの国を守る気があるのか?と疑う。
 最近の自民党政権が「気は確かか?」としか思えないのは、武器輸出を促進し、それをさらに拡大しようと考えていることだ。  
 岸田政権は、これまで憲法に基づき国際紛争を助長しないという理念のもと、武器輸出を抑制してきた従来の政府方針を、あっけなく転換した。
 「殺傷武器の輸出もできるようにする」とする、新方針を示唆した。とくに公明党との協議では、3国共同開発の次期戦闘機を念頭に、日本から第三国への輸出を解禁したいとの考えも説明している。
 しかし、前述したように、日本の武器はいずれも「低性能」「低信頼性」「高価格」で、こんなものを買う国はない。すでに、安倍政権時代、インド向けの「US2」飛行艇、ニュージーランド向けの「P1」哨戒機、「C2」輸送機の輸出に失敗している。なぜ失敗したのか、愛国保守の人々は考えもしないのだから、あきれ返るほかない。
 最後に言いたいのは、日本政府はもっと戦略的に日本防衛になにが必要かを考えるべきだとうことだ。「スタンド・オフ・ミサイル」だの「イージス・システム搭載艦」だのと、つぎはぎ的に“増強”しても、防衛力の強化にはならない。まったくもって、日本の防衛政策は“支離滅裂”と言うほかない。
 北朝鮮や中国のミサイルから本当に国民を守るなら、現在のところ、イスラエルが開発した「アイアンドーム」システムがもっとも有効だろう。ハマースやヒズボラなどによる激しいロケット弾攻撃から悩まされてきたイスラエルは、全力をあげてこれを開発した。
 いまのところ、アイアンドームは、世界でもっとも有効なミサイル防衛である。自爆ドローンも、これで防げる。
 ウクライナのゼレンスキー大統領も、西側からのアイアンドームの供与を強く要求している。


(了)

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :