連載1108 もはや地球温暖化は止められない。「気候オアシス」への「環境移住」が始まっている! (下)

連載1108 もはや地球温暖化は止められない。「気候オアシス」への「環境移住」が始まっている! (下)

(この記事の初出は2023年10月3日)

フロリダやアリゾナよりミシガンやミネソタ

 アメリカのインターネット不動産大手「Redfin」が2021年12月に実施した調査によると、向こう1年間に住宅を購入または売却する計画のアメリカ人1500人のうち、約10%が気候変動リスクを売却の最大の理由だと答えている。
 環境移住というトレンドを象徴する言葉が、「ハイランド」(highland:高地、高原)と「ニューノース」(new north:新しい北部)である。たとえば、マーク・ザッカーバーグはハワイのカウアイ島の高地に土地を買い、ビル・ゲイツは日本の軽井沢に邸宅を建てた。
 「ニューノース」として人気の都市は、アメリカでは前記したダルース、ジャクソンホールなどのほか、五大湖周辺のクリーブランド、ロチェスターなど、カナダではトロント、バンクーバー、ヨーロッパでは北欧のコペンハーゲン、オスロ、ヘルシンキ、ストックホルムなどだ。いずれの都市も豊かで、温暖化が進んだため冬の寒さは和らいでいる。
 最近はアジアでも、富裕層は同じような行動をし始めている。私がかつて取材したことがある香港のミリオネアは、日本の箱根と八ケ岳清里高原に物件を購入した。
 驚くのは、なんとグリーンランドのヌークという港湾都市に目を付け、ここに不動産を購入したアメリカ人がいることだ。
 10世紀から14世紀にかけて、世界的に気温が高かった「中世温暖期」(Medieval Warm Period)という時代があった。この時代に、グリーンランドにやって来たバイキングたちは、牧畜生活をしていたという記録が残っている。グリーンランドの氷河はすでに溶け出している。

移住の参考になる「世界都市ランキング」

 環境移住を考えるとき、ある程度参考になるのは、各種の「都市ランキング」調査である。まず紹介したいのが、「エコノミスト」誌が調査・公表している「世界住みやすい都市ランキング」(The Global Liveability Index )。
 この2023年版のトップ20は次のようになっている。
1ウィーン(オーストリア)、2コペンハーゲン(デンマーク)、3メルボルン(オーストラリア)、4シドニー(オーストラリア)、5バンクーバー(カナダ)、6チューリッヒ(スイス)、7カルガリー(カナダ)、7ジュネーブ(スイス)、9トロント(カナダ)、10大阪(日本)、11オークランド(ニュージーランド)、12:アデレード(オーストラリア)、13パース(オーストラリア)、14ヘルシンキ(フィンランド)、15東京(日本)、16ブリスベン(オーストラリア)、17フランクフルト(ドイツ)、18ベルリン(ドイツ)、19ルクセンブルク(ルクセンブルク)、20アムステルダム(オランダ)  このランキングは、世界173都市について、インフラ、医療、犯罪発生率、教育システム、政治・社会の安定性、文化・環境などの項目を指数化し、その総合スコアで順位をつけたものだ。
 続いては、スイスのビ国際経営開発研究所(IMD)が公表している「スマートシティ指数」(Smart City Index)。この2023年版のトップ20は次のようになっている。
1チューリッヒ(スイス)、2オスロ(ノルウェー)、3キャンベラ(オーストラリア)、4コペンハーゲン(デンマーク)、5ローザンヌ(スイス)、6ロンドン(イギリス)、7シンガポール(シンガポール)、8ヘルシンキ(フィンランド)、9ジュネーブ(スイス)、10ストックホルム(スウェーデン)、11ハンブルグ(ドイツ)、12北京(中国)、13アブダビ(UAE)、14プラハ(チェコ)、15アムステルダム(オランダ)、16ソウル(韓国)、17ドバイ(UAE)、18シドニー(オーストラリア)、19香港(香港)、20ミュンヘン(ドイツ)
 この指数は、価格の住宅、道路の混雑、緑地、雇用など、都市での生活に関する15の事項について調査したもので、スマートさ(つまり最新テクノロジーによる生活の利便性)に主眼が置かれている。したがって、日本の都市は上位に入っていない。ちなみに東京は72位、大阪は98位だ。
 もちろん、この2つのランキングには、地球温暖化、気候変動などという要素は入っていない。しかし、どんな都市が暮らしやすいかを知り、そこに、地球温暖化、気候変動の要素を加味することで、環境移住の適地を知ることができる。
 たとえば、ランキングに入っている都市で熱帯にあるものはまず外す。そして、なるべく北(南半球なら南)にある都市を選ぶべきだ。


(つづく)

この続きは11月13日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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