連載1120 政府支援では問題は解決しない! 「ホタテを食べよう」キャンペーンのバカバカしさ (上)

連載1120 政府支援では問題は解決しない!
「ホタテを食べよう」キャンペーンのバカバカしさ (上)

(この記事の初出は2023年10月24日)

「増税メガネ」と言われるのを嫌って、岸田首相が打ち出した期間限定の「所得減税」の評判がサイテーだ。ともかく、なにをするにもバラマキと政府支援。ほかに政策がない。これでは、日本は完全な社会主義国である。
 原発処理水放出による中国の日本の海産物の輸入禁止による漁業者への補償も、同じバラマキでビジョンがない。その目玉とされているのが「ホタテ」で、政府は自ら「ホタテを食べよう」キャンペーンに乗り出している。
 しかし、いくら日本国民とはいえ、中国の嫌がらせへの対抗心だけで、価格も下がらないホタテをもっと食べるだろうか? ホタテの現状を知れば知るほど、食べるのがバカバカしくなってくる。 

首相自らが「2日連続で食べた」とアピール

 中国の日本の海産物の輸入禁止が始まってから、いつの間にか、日本の産海産物の主役にホタテが躍り出た。最近は、スーパーやデパート、回転寿司などで、「ホタテを食べよう」キャンペーンが盛んに行われている。
 なにしろ、政府自らがキャンペーンに乗り出しているのだから、民間が便乗しないわけがない。
 先月の29日には、宮下一郎農林水産相自らが、記者会見で、「#食べるぜニッポン!」と書かれたプラカードを掲げ、「毎月1粒ずつ年12粒食べてほしいが、1粒ずつはちょっと無理なので、数個入ったホタテ料理を年に2回食べて応援してほしい」などと訴えた。
 岸田文雄首相にいたっては、10月17日、官邸を訪れた北海道の鈴木直道知事や地元の漁連関係者と面会し、ホタテの刺身を試食して、こう言った。
「肉厚感と、それからなめらかさ、この舌触り、その喉越しというか、なんかこう…豊かでいいですよね。きのう関係大臣と昼飯食ったときに、ホタテのフライをいただきました。2日連続ホタテです。もう一個いいですか?」
 岸田首相はすでに、9月の段階で、これまでの風評被害に対するための約800億円の補助金に加え、新たに207億円を水産業への緊急支援に投じると宣言している。
 その目玉がホタテで、「ホタテはオレが守る」と豪語していた。
 しかし、物事はそんな単純なものではない。

中国リスクを顧みなかった業者をなぜ救う?

 農林水産省によると、2022年の日本の水産物の輸出額は、3873億円。このうち、ホタテの輸出額は1070億円で、品目別のトップの座を占めている。そして、ホタテの輸出先の約半分が中国となっている。

[日本のホタテ 輸出先トップ3] 
  1.中国(467億円)
  2.台湾(111億円)
  3.アメリカ(78億円)

 しかも、中国向けの輸出の約8割が、北海道の水産業者からのもので、試算では、今回の中国の輸入禁止で約400億円を北海道は失うことになる。
 つまり、その穴埋めを、日本国民がもっとホタテを食べることで補填する。そうして、北海道のホタテ業者を守ろうというのが、政府の狙いなのだが、「冗談ではない」という反対の声がある。
 その最大の理由は、「中国リスクを顧みず、中国一辺倒で儲けてきた業者をなぜ救わなければならないのか。こうなったら、中国以外の販路を開拓すればいいではないか。税金や国民の善意に突け込むのはおかしい」というものだ。

(つづく)

この続きは12月1日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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