連載1122 政府支援では問題は解決しない! 「ホタテを食べよう」キャンペーンのバカバカしさ (完)

連載1122 政府支援では問題は解決しない!
「ホタテを食べよう」キャンペーンのバカバカしさ (完)

(この記事の初出は2023年10月24日)

天然物などない、ホタテはほぼ100%養殖

 とくに聞くに耐えないのは、素人の「ホタテを守ろう」という意見である。これも、ちょっと調べればわかることだが、現在、私たちの食卓の上るホタテは、ほぼ100%養殖によるものだ。純天然物などほとんどなく、一部天然とされているものも、“栽培漁業”で放流されたものを「天然」として扱っているにすぎない。
 ホタテの養殖が盛んなのは、北海道の噴火湾や、青森県の津軽海峡沿岸で、貝をロープまたはかごに入れて海中に吊るし2年間成長させて漁獲する「垂下式養殖」が行われている。
 その一方で、北海道のオホーツク沿岸では、放流貝が漁獲の対象で、1年育てた稚貝を海に放し海底で4年間成長させて漁獲する「地まき漁業」が行われている。
 いずれにせよ、このような養殖漁業は、もはや、その日の収穫の当たり外れに左右される「漁業」ではなく、一つの確立された産業である。それなのに、気候変動に左右される農産物と同じに扱い、補助金を出す意味はない。
 チャイナリスクは、他産業においてもこれまで散々言われてきたのだから、中国輸出一辺倒に頼ってきたこと自体が間違いであろう。

食品輸出のための認証を取らないで丸投げ

 中国が日本産ホタテの輸入を急増させたのは、2010年ごろとされている。もともと中国人は、漁獲類をそれほど食べない。それもあって、ホタテの需要は、たとえば大連沖の渤海湾で獲れたものや養殖ホタテで十分に賄えていた。
 それが、気候変動によって急減したため、日本からの輸入を急拡大させたのである。
 中国のホタテ産業は、約8割が国内消費で約2割が輸出。輸出先は筆頭がアメリカで、カナダ、香港、台湾、韓国、欧州などである。輸出のためには、「SC認証」(生産認証)、ISO9000(ISO=国際標準化機構が定めた品質マネジメントシステムの規格)、「HACCP」(ハサップ:危害要因分析重要管理点)などの取得が必要で、アメリカの場合は「FDA認証」(FDA=アメリカ食品医薬品局が定めた薬機法や食品衛生法に違反していないという認証)、欧州の場合は「BRCスタンダード」(食品の製造、包装材料、貯蔵、配送、消費財の安全性と品質をカバーする認証基準)が必要である。
 中国の業者は、こうした認証をこまめに取ってきたが、日本の業者はこれらの取得を面倒くさがり、中国に輸出することで努力を回避してきた。つまり、中国以外の販路を開拓せず、中国に丸投げしてきたのだ。
 それなのに、中国ルートが閉ざされたからといって、政府に甘える、まして国民の助けを得ようというのは、ただの甘えだ。
 資本主義市場なのだから、自ら市場を開拓する努力をするのが筋というものだ。ところが、岸田政権は資本主義をやろうとしない。「新しい資本主義」と言いながら、社会主義的バラマキ、定見なき弱者救済政策を繰り返している。

禁輸を迂回できる道はいくらでもある

 それにしても、なぜ、岸田政権は、筋の通らないことばかりするのだろうか。
 10月23日の所信表明演説では、期間限定の「所得税減税」を打ち出した。しかし、これは「増税メガネ」と言われるのを嫌ったからだと国民に見抜かれ、評判はサイテーだ。歴代の自公政権は、これまで、なにをするにもバラマキと政府支援ばかりだから、この国はどんどん衰退していく。
 市場原理のなかで、最大限の努力をしない産業は潰れても仕方ない。なぜ、そう割り切れないのだろうか。
 ホタテ産業に必要なのは、市場の開拓であって、政府からの援助ではない。欧米への輸出は、安全基準が厳しく、それに対応するのは難しいので政府に頼る。こんな産業ばかりになってしまったら、日本はさらに衰退するだけだろう。
 それにしても、ホタテに代わるものはいくらでもある。別に食べなくとも、困るわけではない。レアアースのような戦略物質ならともかく、ホタテでこれだから、これからのことを思うと本当に憂鬱になる。
 最後に書いておきたいのは、たとえ正式な輸出ルートがなくなろうと、迂回ルートはいくらでもあるということだ。たとえば、カンボジアを使えば、日本産をカンボジア産として輸出可能だ。実際、ほかの業界でこうやっているところはいくらでもある。岸田政権の面々といまの官僚たちは、本当に“化石アタマ”人間ばかりである。
 たかがホタテ、されどホタテ。いい加減、政治家が目覚めないと、日本は加速度的に衰退するだろう。

(つづく)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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