連載1124 時代錯誤、現実無視 岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (中)

連載1124 時代錯誤、現実無視
岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (中)

(この記事の初出は2023年11月7日)

GDP 4位を転落と思わない負け犬根性

 それにしても不思議なのは、IMFが2023年の各国の名目GDPの見通しを公表し、そのなかで、日本がドイツに抜かれ世界第4位に転落するとされたというのに、なぜか多くのメディア、国民がほぼ無反応なことだ。
 政府にいたってはコメントすらない。
 しかし、中国に抜かれて世界第3位への転落は、人口比から見ても仕方ないとしても、人口が約8300万人のドイツに人口約1億2600万人の日本が抜かれるのは、大変なことだ。1人あたりのGDPで見てみれば、日本人は圧倒的に貧しくなったからである。
 日本の1人あたりのGDPは、現在、アジアでは韓国、台湾、欧州ではイタリア、スペインと同レベルの3.5万ドル〜4万ドルである。
 日本の上には、5万ドル前後の国々があり、このなかにはドイツ、イギリス、フランス、カナダなどがいて、G7の国々はほぼこのレベルだ。
 さらにこの上に、8万ドルを超える国々がある。アメリカはこのレベルで、アジアではシンガポールとカタールがこのグループに入る。
 つまり、GDP世界4位というのは、とんでもない大転落であり、もはや日本が先進国ではないことを端的に表している。したがって、これを問題視しないのは、「負け犬」根性が染み付いてしまったと言っていい。素直に負け犬を認めて、巻き返しを図るのが本来の姿だ。
 ところが、政治たちは日本が負け犬だとは思っていないのだから、始末に悪い。

「ライドシェア」「EV」を議論する時代錯誤

 保守派は日本が落ちぶれてしまったことを、頑として認めない。認めなければ、対策を立てようがない。今回の経済対策の一環として、「ライドシェア」の解禁が話題になったが、多くの先進国で10年以上前に実現している。
「個々の自治体の状況に合わせて議論する」「ドライバーの信頼性が担保できない」などと言っている段階で、もう実現はしないだろう。
 経済成長にはイノベーション、生産性の向上が欠かせない。これがなければ、いくら減税だの金利だの、財政出動などといっても、なにも始まらない。
 よって、ライドショア以上に問題なのは、自動車のEV転換の遅れだ。いくら史上最高の売り上げといっても、トヨタは完全に時代錯誤の会社になってしまった。
 トヨタを批判すると、いまだに「EVは利便性でガソリン車に劣る」「HEVの方が走行性、効率性に優れている」などと言う向きがあるが、EVはカーボンニュートラルのために実現させなければいけないのであって、利便性、効率性などを議論する意味はない。

EV化、風力、太陽光発電を阻む石器アタマ

 EVは従来のクルマではない。走るコンピュータであり、開発はソフトウェアがメインだ。すでに、クルマは「SDV」(Software Defined Vehicle:ソフトウェア・デファインド・ビークル、テスラが命名)と呼ばれ、EV転換が遅れたトヨタは現在SDV対応のクルマを発売できない状態だ。
 しかも、世界では「AV」(Autonomous Vehicle:自動運転車)が実用化され、アメリカと中国ではすでに無人タクシーが営業を開始している。
 自動運転車に関して日本は、公道実験などでは先行したものの、規制緩和が行われなかったために実現せず、EVも充電ステーションをかなり早くから実現させたのに、開発が致命的に遅れてしまった。
 いずれも、政治家が「石器アタマ」で、中国のように、先端分野に思い切った投資をしなかったからである。
 これは風力発電、太陽光発電も同じで、いくらベンチャーが新技術でビジネスを始めようとしても、政治家と既存業界がこれを阻む。なにしろ、政治家に7200万円の賄賂を渡さなければ(洋上風力汚職事件)、ルールが変更できないのだから、イノベーションなど起こるわけがない。

(つづく)

この続きは12月7日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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