連載1130 追い込まれた海洋国家ニッポン 負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (完)

連載1130 追い込まれた海洋国家ニッポン
負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (完)

(この記事の初出は2023年11月14日)

「水素燃料船」の開発・実用化への壁

 現在、ゼロエミッション燃料として、もっとも期待されているのが水素である。すでに水素は、自動車用や発電用などで開発・活用が進んでいるので、これを船にも応用しようというのだ。
 ただし、水素は簡単に着火できるが、いったん着火するとそのまま激しく燃えてしまうという特性がある。この燃焼をコントロールする技術の開発が難航している。
 また、水素は重油と比較してエネルギー密度が低いので、重油と同量の熱量を得るためには、4.5倍の容積が必要という。つまり、水素を燃料とするには、高度な燃料コントロール技術による新エンジンの開発と、容量の大きい水素を積み込めるような船体の改良が必要という。

水素燃料船にもっとも注力している川崎重工

 日本で水素燃料船にもっとも注力しているのが、川崎重工業である。川崎重工は「シップ・オブ・ザ・イヤー2021」を受賞した世界初の液化水素船「すいそふろんてぃあ」を製造し、2022年2月、オーストラリアから日本への液化水素輸送実証試験を実施した。
 「すいそふろんてぃあ」は順調に航行し、4月に神戸に到着。ここで、岸田首相も出席した記念式典が行われた。この式典で、川崎重工の橋本康彦社長は「今後の需要拡大に向け、海外からの大規模輸送のための液化水素運搬船や関連設備の大型化、商用化に取り組んでいく」と、今後を見据えた意気込みを述べた。
 もちろん、川崎重工ばかりではない。日本郵船、商船三井などほかの日本勢も実用化に向けた開発を進めている。日本政府も「水素基本戦略」を策定し、水素エネルギーの実用化に向けて投資を続けてきている。
 そのため、水素に関しては、日本は世界では一歩先を行っている。しかし、政府資金の投入では、アメリカや中国にかなうわけがなく、今後アドバンテージを失っていく可能性が高い。

中韓との熾烈な戦いになるアンモニア燃料船

 水素の次を担うのはアンモニア。そう言われており、「アンモニア燃料船」こそ、脱炭素の最終的な切り札と期待されている。
 ただし、アンモニアは燃焼する際にSOxを排出するのが大きな難点で、それに加えて毒性、腐食性があるため、安全な貯蔵・運搬技術の確立が開発の焦点になっている。
 また、アンモニアは水素と同様にエネルギー密度が重油に比べて低い。そのため、重油と同量の熱量を得るためには2.7倍の容積が必要となるという。
 こうしたいくつかのハードルを克服し、中韓との開発競争に勝たねばならない。それができなければ、日本の造船の復活はないという。
 その結果できたのが、日本連合とも言える、日本郵船、IHI原動機、日本シップヤード、ジャパンエンジンコーポレーション、日本海事協会(ClassNK)」5社によるアンモニア燃料船の共同開発である。5社連合は、とりあえずの第1弾として、2024年6月に、アンモニア燃料タグボートを就航させる予定になっている。
 しかし、前述の業界人に言わせると、「中韓の追い上げは予想以上に進んでいて、たとえばサムスンは、巨済造船所内でアンモニア実証設備の造成を進めています。また、中国も、CSSCがアンモニア燃料船の開発を進めていて、CSSCの大連船舶重工は、アンモニア燃料の21万重量トン型バルカーを開発しました。うかうかしてはいられませんよ」
 はたして、この日中韓の建艦競争の行方はどうなるか?いまのところ誰も予測がつかない。ただ、現在の日本がかなり追い詰められているのは事実である。
 繰り返し書くが、世界の船舶建造は日中韓の3国で約95%を占めている。ということは、船舶およびその周辺機材が国内で調達できなくなった場合、日本は中国や韓国から船舶を購入することになる。これは単なる経済問題ではなく、日本のような海洋国家にとっては安全保障に関わる重大な問題である。

(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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