アメリカの世界覇権は終焉するのか? 中国が次の覇権国なることはありえるのか? (下)

アメリカの世界覇権は終焉するのか?
中国が次の覇権国なることはありえるのか? (下)

(この記事の初出は2023年12月12日)

中南米はアメリカの裏庭ではなくなった

 グローバルサウスに属するとされる中南米諸国の「アメリカ離れ」が進んでいる。中南米は「アメリカの裏庭」(American backyard)と言われるのに、反米左翼政権が続々と誕生している。
 そのため、反米左翼国家の筆頭であるベネズエラが、アメリカからの制裁・包囲網にもかかわらず息を吹き返し、周辺国との外交関係を復活させた。とくに2022〜2023年にかけて、右派から左派に政権交代したブラジルとコロンビアとの関係修復が大きい。
 中南米では、メキシコ、ニカラグア、コロンビア、ベネズエラ、ボリビア、アルゼンチン、ホンジュラス、ペルー、チリと、主要国で軒並み左派政権が誕生したが、なかでも世界5位、中南米最大の人口(2億1400万人)を誇るブラジルでの左翼奪権は、アメリカに衝撃を与えた。
2023年1月に大統領に就任したルーラ・ダ・シルバは、ボルソナロ前政権の欧米重視外交を「多方向外交」へと転換、4月には北京を訪問して習近平主席と首脳会談を持った。欧米とも中ロとも友好を保ち、「BRICS」の一員として確固たる姿勢でやっていくというのだ。
 結局、インドと同じ“コウモリ外交”である。

BRICSの拡大とドル経済権からの離脱

 現在、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、ほとんど反米国家となっている。中ロ2国は徹底した反米、ほかの3国もグレーではあるが、アメリカ主導の世界からは一線をおこうとしている。
 そしていま、BRICSは、グローバルサウス諸国を巻き込んで、新しい世界秩序をつくろうとしている。それが「拡大BRICS」だ。
 来年からBRICSは5カ国から6カ国増えて計11カ国になる。2023年8月、南アフリカで開かれたBRICS会議で、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国の参加が決まったからだ。
 この拡大BRICSが狙っているのが、米ドル経済圏からの離脱である。
 その実現のため「BRICS新通貨」が盛んに議論されている。しかし、米ドルに代わる準備通貨、国際決済通貨が可能だろうか?
 もしそんな通貨ができれば、アメリカの世界覇権は本当に失われることになるから、アメリカは全力で阻止する。ドルとの兌換を停止させるのは間違いない。
 なによりも、その通貨圏の経済規模が、ドル経済圏を上回らなければBRICS通貨は誕生しようがない。となると、その可能性があるのは中国だけであり、人民元がドルに代わることになるが、そんなことが起こるだろうか?

次の世界覇権国は本当に中国になるのか?

 中国が次の世界覇権国になる。米中経済は逆転し、GDP世界一になった中国がアメリカから世界覇権を奪う。
 そういう見方は、もう何年も前から出ており、議論もされてきている。最近の日本では副島隆彦が盛んに言っており、このほど彼の『中国は嫌々(いやいや)ながら世界覇権を握る』という本が発売される。
 しかし、私は中国が世界覇権を握ることは絶対にありえないと思っている。
 中国は、この半世紀の間に、これまでの歴史になかった、日本をはるかにしのぐ高度経済成長を達成し、人類史上最大の規模の国民を貧困から脱け出させた。これはものすごいことで、この点ではこの国の力を認めざるをえない。
 しかし、中国の成功は、自由主義経済の導入と個人の自由のある程度の解放によってもたらされたもので、中国という強権主義国家の政治力によるものではない。
もともと、利に聡く、優秀だった中国人が、「改革開放」政策によって、自由な経済活動が可能になった。それが中国をGDP世界第2位の国家にしたのだ。

(つづく)

 

この続きは1月16日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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