共同通信
群馬県の山あいに位置する人口約1万5千人の中之条町に2023年7月、周辺の観光プラン提案やガイドを行う旅行代理店「フクロコウジ」が開業した。案内するのは温泉や湖だけでなく、ハンセン病関連施設など、さまざま。町出身の店主原沢香司(はらさわ・こうじ)さん(45)は「小さな町にこそ、観光を楽しめる資源がたくさんある」と奮起する。
多くの客が訪れるのは四万(しま)や沢渡などの温泉街。四万湖でのカヌーや、国際的に重要な湿地を保全する「ラムサール条約」に登録されている芳ケ平(よしがだいら)湿地群のハイキングも人気だ。原沢さんはプラン提案や宿泊施設予約を行い、時には同行してガイドもする。店舗では旅をテーマにした本も集めて販売している。
原沢さんは東京の大学を卒業後、都内の旅行代理店に約12年間勤務した。上京前は地元に魅力を感じなかったが、海外の観光地を訪れるうちに「中之条にも世界に負けない魅力がある」と気付く。2014年にUターンし地元の観光協会に勤務。「収入が不安定になる葛藤もあったが、自分のやりたかった観光業と書店を、とことん追求したい」と独立した。
会社員時代、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所跡を見学するツアーなどを企画した経験から「歴史を学ぶ観光」も重視。中之条町の隣、群馬県草津町にあるハンセン病の「重監房資料館」にも学生や観光客を案内する。人権を無視し、患者を強制隔離した過去を伝える施設だ。原沢さんは「負の歴史も観光に組み込んで積極的に伝えたい」と力を込める。
中之条町は近年人口減少が続く。町の活性化に貢献したいと考え、2023年4月には町議選に出馬し当選した。15人中の最年少議員としても活躍する。
売り上げは本の販売の方が多く、代理店業務はまだまだ。それでも遠方からの観光客に地元を紹介できることに喜びも感じる。「今後も中之条独自の魅力を発信し続けたい」と語った。