共同通信
愛媛県今治市に今年4月開設する「FC今治高里山校」の全貌が見えてきた。地元の学校法人とサッカーJ3のFC今治が提携して誕生する異色の学校。午前に一般的な教科の座学を終え、午後は働く現場に身を置き実践的な思考力を養う。社会とつながるカリキュラムで主体性と創造力を磨き、予測不能な時代をけん引する人材を育てる。(共同通信=山口裕太郎、熊木ひと美)
▽感性に触れる
学園長を務める元サッカー日本代表監督の岡田武史(おかだ・たけし)さん(67)は「生徒の個性と主体性を伸ばす学びを提供したい」と話す。実践的な学びを通し、それぞれの生徒が没頭できるテーマを見つけて追求できるようサポートするという。
トップアスリート、アーティストらとの対話から彼らの感性に触れ、新しい挑戦に踏み出すきっかけをつかむ講座を用意した。提携する地域企業で実業を体験し、現実社会に潜む課題を探って解決方法を考える校外フィールドワークもある。
校長の辻正太(つじ・しょうた)さん(41)は「私たちを取り巻く環境は変化し、与えられた課題の解決が経済成長に直結する時代は終わった」との認識を示す。
その上で「これからは自ら問いを立てて解決に向かう主体性と精神的なタフさを併せ持ち、クリエーティブな働きができる人材が求められる」と強調。知識量や情報処理能力を重視してきた日本の教育を見直す必要性を訴える。
▽手を動かす
2023年11月、全国の中学生を対象に同校での学びを体験できる機会を設けた。体育講師に就任する元パラアイスホッケー日本代表選手の上原大祐(うえはら・だいすけ)さん(42)を迎えて「片手でも使いやすいスティックのりの開発」をテーマに意見を出し合った。
二分脊椎症で生まれつき足が不自由だった上原さんは、社会のバリアフリー化が進むよう発信を続けてきた。「想像するだけでは足りない。実際に片手で使って、感じた不便さをアイデア化してみて」と語りかける。
生徒から「力が入れにくい。ペンのようにノック式でのりを出せるようにしてはどうか」などの案が出た。中3の吉岡拓海(よしおか・たくみ)さんは「体験して意見を出し合い、思いつかなかった考えを持てた」と充実した表情を見せた。
その後、特産品「今治タオル」を作る地元企業「丹後」を訪問。「持続可能な商品でお客さんを喜ばせる」という企業理念に沿うよう、不良品として廃棄されてしまうタオルを別商品にして売り出す方法を考えた。
2024年度は80人を定員に新入生を募集。1月4~12日に一般入試の出願を受け付ける。物事に取り組む姿勢や意欲を重視するため学科試験はない。1次選考は、同校で学びたい理由などを題材にエッセーを書く。2次選考は1泊2日で、岡田学園長や講師に就く元プロ野球選手の古田敦也(ふるた・あつや)さん(58)らが試験官を務めて面接やグループワークを実施する。