コロナで閉店の美容室、屋台型バイクで再開

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共同通信
用具を積み込んだバイクにまたがる美容師のタナワットさん=2023年12月、タイ・ブリラム郊外(共同)

 大量の荷物を積んだ1台のバイクが少しよろめきながらゆっくりと走っていた。車載スピーカーからは「どんな髪形もお任せを! 散髪しませんかー」と威勢の良い録音メッセージ。タイ東北部ブリラム郊外で、新型コロナウイルス禍を機に美容師が始めた「屋台型美容室」。バイクに用具を全て積み込み、客に呼び止められればその場で散髪するスタイルで、今も人気が続いている。(共同通信=伊藤元輝)

 バイクは手製の屋根に覆われ、中をのぞくと子どもの秘密基地を見るようにわくわくしてくる。はさみ、くし、バリカン、ヘアアイロンから白髪染め液。座席の前後のケースに収納したり、車体に取り付けたフックに引っかけたりと工夫が凝らされている。ソーラーパネルや蓄電池もある。

 運転するのは美容師のタナワットさん(42)。2023年12月上旬、市場が開いたこの日は一角に停車した。折りたたみ式の椅子をぱっと開けば、すぐに開店だ。次々と客が訪れ、女性も少なくない。料金は60~100バーツ(約240~400円)で、角刈りから巻き髪ロングヘアまで慣れた手つきで対応する。

 タナワットさんはかつて首都バンコクで複数の美容室を経営していたが、コロナ禍で客足が減り閉店。故郷のブリラムに戻る機会だと気持ちを切り替えた。屋台が多いタイでも、路上での散髪は珍しい。注目され、人気に火が付いた。

 もう新たな店を開くつもりはない。家を出られない高齢者に感謝され、定期訪問するようになったのが理由の一つ。「移動しながらいろんな人に会うのが楽しい」

 まねをした商売を始める人も出てきたが、成果はいまひとつだという。成功の秘訣を問うと「結局は散髪の技術が一番大事だよ」とにっこり。鈍いエンジン音を響かせながら、次の客を探しに向かった。

バイクの前で客に散髪の仕上がりを確認する美容師のタナワットさん=2023年12月、タイ・ブリラム郊外(共同)
タイ・ブリラム、バンコクの地図
バイクの前で客の髪を切る美容師のタナワットさん=2023年12月、タイ・ブリラム郊外(共同)
用具を積み込んだバイクに乗る美容師のタナワットさん=2023年12月、タイ・ブリラム郊外(共同)