共同通信
江戸時代後期に描かれ、140年以上も後にフランス東部で見つかったアイヌ民族の有力者たちの肖像画「夷酋列像(いしゅうれつぞう)」の謎を追い続ける元新聞記者がいる。札幌市の加藤利器さん(67)は「国宝級の名画が、なぜフランスに渡ったのか。北海道を挙げて調査に乗り出してほしい」と訴える。(共同通信=尾崎純)
絵は松前藩家老で画家の蠣崎波響(かきざきはきょう)が、和人の圧政に対してアイヌが蜂起した「クナシリ・メナシの戦い」(1789年)の鎮圧に協力した12人の首長を描いた連作で、1790年に完成した。1933年に「ブザンソン美術考古博物館」の倉庫で1枚が欠落した状態で見つかり、80年代の調査で本物と特定された。
加藤さんによると、持ち出した人物には、箱館戦争に派遣されたフランス軍人や蠣崎の長男などさまざまな説がある。
有力視されるのは幕末の箱館に滞在したフランス人宣教師メルメ・カション。箱館奉行所から贈られた絵を同郷の宣教師に託し、さらにブザンソン美術考古博物館の学芸員を務めたその弟の手に渡ったとの説だ。ただ確証は得られていない。
絵との出会いは北海道新聞の5年目記者だった1984年。郷土の名画発見を1面トップで報じる自社紙面に目がくぎ付けになった。87年には非公開の実物を見る機会にも恵まれ、繊細な描写力と鮮やかな色彩に衝撃を受けた。94年からは北海道新聞のパリ特派員として学芸員や軍人の子孫らを精力的に取材したが、謎は解けなかった。
2021年に定年退職後も、未練と使命感が残った。今も現地の学芸員に個人的に取材するほか、フランス語学校での文化講座で話したり、22年4月には成果をまとめた書籍を自費出版したりと、地道な周知活動にも取り組む。
絵は現在も博物館の倉庫に眠ったまま。加藤さんは国内、特に道内での定期的な一般公開を願う。「アイヌへの理解を深め、謎解きの機運を再び醸成していくためにも、行政機関や研究者が一体となってフランスへの働きかけを進めてほしい」