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共同通信
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能登半島地震で余儀なくされた避難所生活に耐えられず、妻と金沢市への避難を決意した石川県珠洲市の男性(72)は、知り合いに「片付けもあるので、いったん家に戻ります」ととっさにうそをついた。「逃げてしまった」と罪悪感に苦しむ。大規模災害の被災者が自らを責める「サバイバーズ・ギルト」だ。
1日夕方、すさまじい横揺れで自宅2階の壁が崩れ、階段からがれきが落下した。近くの高校に妻と身を寄せたが精神的につらかった。最たるものはトイレ。断水のため便器にポリ袋をかけて使い自分で処理する必要がある。妻はボランティアとして運営を手伝ってきたが、避難所暮らしに憔悴していく。ここを出ると決めた。
珠洲は2人の生まれ故郷。見捨てることになるのではとためらいもあったが、奮い立つ力が湧かない。妻を説得し、7日に自力で探した金沢市のホテルに入った。
目をつむりベッドに背中を預けると、地震の感触がよみがえり今も眠れない。「逃げて良かったのか。ふるさとを裏切ったのでは」。避難所を出るときの小さなうそが自分を責め、悔しさで涙が出る。