共同通信
近年コーヒーブームに沸く中国で、脱サラした人や職を失った若者らがカフェを次々とオープンさせている。中でも上海は世界の都市でカフェが最も多く、若者を中心にこだわりの店も人気を集める。受験や仕事のストレスにさらされてきた若者が、低成長時代へ向かう中でオフィスを離れ街角で自分らしい生き方を探し始めている。(共同通信=柴田智也)
旧フランス租界時代の建物が並ぶ上海中心部は、個人経営の小さなカフェやスタンドがひしめく。雲南省の酸味の強い国産豆や果実を使ったコーヒーが多いのも特徴だ。
中国の調査機関によると、上海には8千以上のカフェがあり、米スターバックスだけで千店を超える。中国のコーヒー産業の市場規模は2022年の約2千億元(約4兆円)から2025年に1.8倍まで拡大する見通しだ。
「経営は大変だけど必要とされる実感が持てた」。脱サラし上海市内に2店舗を持つ蘇新怡さん(34)は話す。国有企業にも勤めたが、人間関係や行政相手の仕事を好きになれなかったという。
留学時代に働いたカフェの開店を思いつき、裁判官の母親には「商売なんて」と反対されたが「私は私」と決意。2021年秋に小さな店を開いた。だが2022年は新型コロナウイルス対策の影響で営業できない苦難を味わった。
それでも常連客に恵まれた。1号店改装のデザインは設計士の客が申し出てくれ、2023年12月のリニューアルオープン当日は、他の客が店のイメージカラーの服を着てケーキ持参で祝ってくれた。高齢の客には趣味の絵を贈るなどし、幅広い層の客を引きつけている。
開店2周年を迎えたが、競争相手が次々と生まれている。リストラされた若者が退職手当を元手にカフェを開くこともあるといい、開業を目指す客も度々訪れる。「競うためでなく、友人や地元の人とつながれる場」。蘇さんはしばらく店を増やさず、コーヒーがつなぐ縁を深めるつもりだ。