共同通信
フィリピンで更生施設や養護施設の子供に自立する自信を付けてもらおうと、日系のNPO法人「アクション」がつくった児童教材が成果を上げ、フィリピン政府の公式プログラムに昨年採用された。施設職員を対象に児童との接し方をまとめた教材も作成し、同国初の研修が広がっている。(共同通信=佐々木健)
アクションの横田宗代表(48)が「自己肯定感や成功体験の少ない施設の子供が人間的に成長できるプログラム」の必要性を実感。人生の目標設定や意思疎通、お金の使い方など「生きる力」を身に付ける教材をつくり、現地職員らと共に児童を導いてきた。
▽暴力抑制
「イライラしたときに物を壊したりする?」。アクション職員が質問すると、児童らが「いいえ」と書かれた札の前に集まった。この教材を使いマニラの貧困地区で2年近く行われてきたレッスンの場面だ。路上でけんかを繰り返してきた児童が罪を犯して更生施設に入ることのないようにする目標を掲げる。
「けんかに加わって瓶を投げたり、母親のお金を盗んだりすることはもうしない」。ラム・ベランゲル君(11)は、善悪の認識や感情の制御法を学んだと説明した。母デイシリン・ブランコさん(28)は「以前は挑発されたらすぐ反撃していた。今は私たちに報告するだけ」と評価する。
現地の公立校は定員を大幅に上回る数の児童・生徒を三つのグループに分け、時差登校させて何とか授業をこなす。教員は子供への目配りが十分にできず「いつも急いでいる」(ラム君)。レッスンに加わるグウィネス・ティナオさん(13)は「学校では叱られるだけ。ここでは何が正しい選択かを教えてくれる」と評価した。
この教材は日本語版も完成し、2月に東京で児童養護施設職員を集めてお披露目された。今後、日本でも普及を図る。
▽職員にプロ意識
フィリピンでは以前、児童施設職員向けの研修も教材もなかった。横田氏は、ハウスペアレントと呼ばれる施設職員は国家資格が不要で「子供との向き合い方が分からず、燃え尽きてしまうこともあった。研修する仕組みがあればいいと思った」と振り返る。
職員向けの教材づくりは国際協力機構(JICA)が資金提供した。2012年から6年間、ルソン島中部と首都マニラの計55施設の研修に試用し、社会福祉開発省に提言。2019年に国家標準のプログラムとして承認された。研修修了証を受けた職員にプロ意識が高まる効果が出ているという。
設立30年を迎えたアクションは、施設を出た子供の将来にも目を向ける。困難な就職を助けようと空手やダンスのほか、美容師とマッサージ師育成の教室も開く。横田氏は卒業生が働けるよう2023年4月にスパを自ら開業した。卒業生向けの自動車整備工場や飲食店も準備。3年後の計500人雇用を目指す。(マニラ共同=佐々木健)