チョクロに雪が舞い降りる③
「腹が減ったなぁ」
早朝に町外れのバスターミナルで、一杯のカフェコンレイチェを飲んだだけのその日、修理が終わったバスは乾いた午後の山岳をひた走った。予定が遅れた分お腹もずいぶんと減り、パノラマを眺めつつも気はそぞろ、朝ごはんを抜いたのがいけなかったか、ただそれにはちょっとした訳があった。
そもそもこの国はさまざまな気候を持っており、地理的には熱帯気候にもかかわらず、実際は海岸砂漠地帯のコスタ、アンデス山岳地帯のシエラ、そしてアマゾン森林地帯のセルバの3つの気候に区分されている。海あり、山脈あり、砂漠あり、そしてジャングルまであるという気候てんこ盛りの国。難しい話はさておき、これだけバラエティに富んだ気候を取り揃えているとなれば、分布している植物も豊富なわけで、ペルー原産の野菜は意外と数多い。代表的なものだけでもジャガイモ、トウモロコシ、トマト、トウガラシなどがある。それにもうひとつ、この野菜こそ古来から日本に伝わる由緒正しき食材のように思われているかもしれないカボチャ。残念ながらこれも遥か南米が原産。だいたい考えてみれば「カボチャ」なんて意味不明な名前自体がヘンテコりんだ。
さらに話を逸らして、そうしてみるとかつて割烹着に身を包みニッポンの台所を支えていた我らが婆ちゃんたちのスペシャリティであった「肉ジャガ」や「カボチャの煮付け」は実のところすこぶるインターナショナルな料理だったことが分かってくる。今でこそ和食の代表のようになったこれらの料理は、その昔、南米の食材とのコラボレーションに始まったのだ。とにかく、このような国際級の食材の幾つもがペルー原産だったりするのは興味深い。
さて、ようやく話を戻して、この日向かっていたアレキパはそのペルーのなかでもグルメで知られた街。だからこそ、わざわざ腹を空かせ、到着したらうまいセビーチェにでもありつこうとウキウキしていたのに…と、そんなことを考えている間もさらに増大してくる食欲を、少しはごまかそうと気合を入れて眺める車窓を流れる雲ゆきがなんだか次第に怪しくなってきた。
つづく
浅沼(Jay)秀二
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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