共同通信
タイで若者からの支持が厚い最大野党「前進党」が解党に追い込まれる可能性が浮上している。王室への不敬罪を見直すとの公約に、憲法裁が違憲判断を示したからだ。前進党は昨年の総選挙で、タブー視される王室や軍の改革に切り込んだ訴えが支持されて躍進。人気の高まりに危機感を強める保守層が排除を狙う。交流サイト(SNS)では若者の怒りが渦巻いている。(共同通信=伊藤元輝)
▽不満
「誰かが開花を妨げても、季節の移り変わりはどうやっても止められない」。前進党を支持する9大学の学生が2月上旬、違憲判断を批判する共同声明をSNSで発信した。回りくどい表現を使うのは、直接的に批判すればそれも王室への不敬罪に問われる可能性があるからだ。不敬罪は最高で禁錮15年が科される。
タイでは歴代の国王を敬う態度が国民に浸透している一方で、2016年に即位したワチラロンコン国王が軍の一部を直轄下に置いたり、王室財産を管理できるようにしたりしたことで、2020年に王室を批判する反体制デモが活発化。参加者へ不敬罪を根拠とした出頭命令が相次ぎ、一部には実刑判決も出た。
前進党は不満をくみ取り、2023年5月の総選挙で王室や関係の深い軍の改革を正面から主張。若者の支持で下院第1党に躍り出た。ただ連立交渉に失敗してピター党首(当時)を首相に選出できずに野党となり、タクシン元首相派の「タイ貢献党」が敵対していた親軍派政党との大連立を発足。親軍派は影響力を保持した。
▽排除
「立憲君主制を覆す試みだ」。2024年1月31日、憲法裁は王室を巡って国論が二分されることを問題視し、前進党に意見表明をやめるよう命じた。憲法裁は親軍派の影響を受けているとされる。前進党は公約をホームページから削除したが、躍進の原動力となった訴えだけに取り下げは宣言しなかった。選挙管理委員会は3月18日、公約の違憲判断を根拠に前進党の解党を命じるよう憲法裁に請求した。
若者の支持政党が危機に陥るのは、これが初めてではない。2019年3月の総選挙では「新未来党」が第3党に躍進後、憲法裁が党首から党への融資を違法として解党を命じた。前進党は直後に後継として発足した経緯がある。
王室を中心とした伝統的な国の在り方を重視する声も根強いが、改革を求める抗議は散発的に続いている。新未来党の元議員は「時代がタクシン派と反タクシン派の対立から新世代の台頭に変わった。親軍派が抵抗しても、若者の考えは変えられない」と語った。