共同通信
香川県丸亀市の不動産仲介業者「馬場商事」が、生活保護受給者や刑務所を出所した人の生活の立て直しに貢献している。代表は馬場健誠(ばば・けんせい)さん(26)。困っている人を助けた祖父の遺志を受け継ぎ、行政が対処できない範囲の面倒も見る。経営は安定しないが「出会った人の人生を楽しくするきっかけになりたい」と寄り添い続ける。(共同通信=広川隆秀)
刑務所から出た人が社会復帰する際、住居の確保は必須となる。だが出所者との契約を敬遠する不動産会社は少なくない。犯罪白書によると、2022年に罪を犯して再び刑務所に入った人のうち住居不定者が占める比率は男性が21.8%、女性は9.2%だった。
馬場商事の顧客は、出所者や生活保護受給者ら生活困窮者の割合が約3~4割に上る。福祉関係者の女性は「困ったら馬場商事と言われるほど業界では有名だ」と支持している。
馬場さんは「経営的に良くはない」と正直だ。それでも、出所者らが生活保護を受給できるまで家賃を立て替え、身寄りのない人の家に定期的な見回りもする。
京都の大学を卒業後、都内の人材紹介会社に就職。2020年から流行した新型コロナウイルスの影響で、内定していた海外勤務は取りやめに。1カ月で退職し祖父の不動産業を継ぐことを決意した。
電気や水道の通っていない祖父の事務所は汚かったが、生活保護受給者やホームレスの人が訪れやすい雰囲気があった。宅地建物取引士の資格を取る直前に祖父が亡くなり、21年8月に馬場商事を復活させた。
事務所の清掃中に見つけた祖父の携帯電話やノートに顧客の連絡先が残っていた。大半が生活困窮者。次々と電話をかけて営業再開を報告した。顧客の第1号は、やはり生活保護受給者だった。
収入の多くは家賃1カ月分に相当する仲介手数料。契約先が生活保護受給者の場合、受け入れてくれる大家探しや関係者との調整など業務量が増える。だが家賃は安い。
顧客が逮捕されると生活保護は停止する。役所は個人情報の保護を理由に詳細は教えてくれない。そのため物件の解約手続きができず、部屋に残った荷物を運び出せないこともある。
福祉関係者からの信頼も厚い馬場さんだが「個人の事業者に全てを背負わせるのは負担が大きすぎる。街のインフラを整えるのは行政の役目ではないか」と葛藤も抱えている。「役所に情報があるのなら、せめて説明してほしい。もっと協力態勢があってもいいのでは」と切実に話す。