大谷翔平スキャンダルでつくづく思う 日本はなぜスポーツベッティングを解禁しないのか?(完)

教育界、スポーツ界からも根強い反対の声

 日本で、カジノ誘致問題が起こったとき、反対理由とされたのは、次の4つだ。
「ギャンブル依存症の増加」、「犯罪の増加」「教育上好ましくない」、「周辺環境の悪化」—-要するに、一般人はギャンブルを罪悪視し、“市民”の味方を標榜する左派は、ギャンブル悪玉論を唱える。
 しかし、ギャンブル(賭け)は、人間の一つのサガであり、メリットもある。精神の高揚、労働意欲の高揚になるという調査結果もある。しかも、これまで述べてきたように、経済効果も大きいうえ、税収増につながる。とくにスポーツベッティングの場合、放映権料や広告収入が拡大するとともに、スポーツそのものの活性化にもつながる。
 スポーツベッティングの売り上げの一部を、地域のスポーツ、とくに子どもたちのスポーツ活動に使えばいいのではという意見がある。これは、学校の部活を地域移行させるという、いまのトレンドに合致する。
 しかし、教育界からは、「子どもの部活を理由にスポーツ賭博の合法化を進めるとしたら、とんでもないことだ」「それは、本来、国や自治体がやるべきことで、スポーツビジネスがやるべきことではない」という根強い反対の声がある。
 そのため、スポーツ庁は「地域移行の経費をベッティングで賄うことは考えていない」という声明を出している。

経産省が水面下でベッティング解禁を模索

 経済産業省は、以前より、スポーツビジネスの活性化を狙っていて、日本でもスポーツベッティングを合法化できないかと水面下で模索してきた。
 自民党内には「スポーツ立国調査会」(遠藤利明会長)というのがあり、そこでは経産省が2020年に設置した「地域×スポーツクラブ産業研究会」とともに、スポーツベッティングが再三、議題に取り上げられてきた。
 経産省では、有識者による「スポーツ未来開拓会議」というものも設置していて、2016年に当時約5.5兆円規模だったスポーツビジネスを、2025年には15兆円規模にするという目標を立てた。この目標達成には、スポーツベッティングの合法化は欠かせないとしている。
 そのため、日本のITビジネスは、虎視眈々と解禁を視野にビジネスの拡大を狙っている。たとえば、楽天は三木谷浩史がつくった「日本新経済協議会」で、スポーツベッティングの解禁を政府に求めている。楽天は競輪の「Kドリームス」や地方競馬にオンラインで賭けることができる「楽天競馬」などのサービスをすでに行っている。
“馬好き”藤田普のサイバーエージェントは、すでに競馬やオートを対象としたオンラインプラットフォームを運営、アプリ「ウマ娘」をヒットさており、解禁となれば一気にスポーツベッティング に参入する意向だ。

日本は利権で固められたギャンブル大国

 なんだかんだと言うのは結構だが、最後にはっきり指摘しておきたいのは、日本が世界有数のギャンブル大国だということだ。 ギャンブルの売り上げは、1年間に約26兆円である。
 地方自治体が主催する競馬・競輪などの公営競技は、年間約7兆5000億円を売り上げ、中央競馬は約3兆2000億円、パチンコは約15兆円を売り上げている。これは、全体としてはピーク時より落ちているが、それでもかなりの市場規模である。
 そして、このそれぞれの市場に所轄省庁があって、利権構造になっているので、新規参入は難しいと言える。スポーツベッティングが解禁されれば、これらの各市場の売り上げは確実に落ちるだろう。
 以下が、その利権構造である。
スポーツ振興くじtoto:文部科学省
中央競馬:農林水産省
地方競馬:各自治体
パチンコ:警視庁
宝くじ:総務省
競艇:国土交通省
競輪:経済産業省
カジノ:内閣府
 これでは、当分、スポーツベッティング の解禁はないだろう。日本はますますガラパゴス化する。
(了)

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

→ニューヨークの最新ニュース一覧はこちら←

タグ :  ,