バイデン政権が半導体企業に次々に補助金支給
現在、世界中の主だった政府は、半導体に莫大な投資をしている。
アメリカ政府は、4月15日、韓国のサムスン電子に対し、最大64億ドル(約9900億円)の補助金を支給する覚書に、バイデン大統領が署名したと発表した。
現在、サムスンは170億ドルを投じて、テキサス州テイラーに最先端の2ナノメートルの半導体を製造する工場の建設を進めている。これをアメリカ政府は援助するというのだ。
バイデン政権は、ここのところ次々に半導体メーカーへの投資を発表している。米インテルに最大で85億ドル、台湾のTSMCに最大で66億ドルの補助金をそれぞれ支給するという。さらに、米マイクロンテクノロジーにも補助金を支給するという。
先端技術を渡さないという「封じ込め戦略」
アメリカ政府が最先端半導体に積極投資をするのは、半導体が戦略物資であり、その最先端技術は覇権を握るために欠かせないものだからだ。最近は経済安全保障が重視され、それにともない先端技術の開発・囲い込み競走が激化している。
いわゆる「技術覇権」(techno-hegemony.:テクノヘゲモニー)である。
バイデン大統領は、2022年8月、半導体業界に対する支援法案(通称「CHIPS法」:CHIPS and Science Act)に署名し、「これは一世一代のアメリカへの投資だ」と強調した。この「CHIPS法」により、アメリカ政府は今後10年間にわたって半導体などの先端分野に約2800億ドル(約43兆円)を投資することになった。
こうした半導体への莫大な投資の背景には、中国の先端技術に対する追い上げがある。中国に技術覇権を握らせないために、とくに半導体技術は囲い込んでしまおうというのだ。経済安全保障の面からいえば、ファーウエイ、バイトダンス(TikTok)などに対して行ってきたことと同じだ。アメリカは半導体企業への投資と並行して、中国に対し半導体の製造装置などの輸出を規制した。
中国は欧米をキャッチアップできるのか?
中国の半導体製造は、欧米に比べて2周は遅れていると言われている。現在のところ、中国の半導体企業は12ナノまでの半導体しか生産できない。
しかし、アメリカの規制を受け、自国内での開発・生産(内製化)に対して莫大な資金援助を行っている。これまで中国は日本円にして約16兆円を投入しており、2030年までにはさらに約13兆円を投入するとされている。
その結果、最近ではキャッチアップが進み、欧米から1周遅れのところまできたと言われ出した。内製化率が40%を超えたと見る向きもある。さらに、このまま行けば、数年以内に80%までに達するという見通しも出ている。
また、ファーウエイは、最近になってパッケージングなどの分野で、特許を次々と出願しており、アリババ、テンセントなどはAIチップ(AIのアルゴリズムを高速にするために特化された半導体チップ)の設計に着手していると伝えられている。
ただし、最先端の製造装置の海外からの調達が難しいため、製造は12ナノ~48ナノのミドルレンジの半導体が中心。中国政府は、この分野で世界シェアのトップを獲得する戦略だという。
(つづく)
この続きは5月16日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。