国際法である「SF条約」は憲法より上
これまで、改憲派(=右派)、護憲派(=左派)との平行線議論を嫌と言うほど聞かされてきた。その度に思うのは、この論議の虚しさである。
なぜ、虚しいと思うのか? それは、改憲派、護憲派ともに、厳然たる一つの事実への認識が足りないからだ。この事実がある限り、たとえ憲法を変えようと守ろうと、日本という国のかたちは変えようがない。
厳然たる一つの事実というのは、1951年に日本と連合国48カ国の間で結ばれた、第2次世界大戦による法的な戦争状態を終わらせるための「日本国との平和条約」(Treaty of Peace with Japan)、通称「サンフランシスコ平和条約」(SF平和条約)であり、この条約では日本の“真の独立”は認められていないということである。
SF平和条約というのは国際条約であり、国内法である憲法より上位にくる。
つまり、改憲派が目指す「九条改正」による自衛隊の国軍化、それによるアメリカとの対等な関係、さらに言えば「独立国家としての日本」は、憲法改正だけでは実現しない。
また、護憲派が守りたい「平和憲法」による日本の平和と独立というのは、まったくの“絵空事”なのである。
「第九条」はアメリカの平和のためのもの
占領下の日本でGHQがたった9日間でつくった日本国憲法は、第九条で次のように戦争の放棄をうたっている。
[日本国憲法第九条]
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、1国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は 武力の行使は、2国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②3前項の目的を達するため、陸海空軍その他の4戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない。
これは、どう読んでも、日本の武装解除を正当化したものであり、主権の放棄である。交戦権は国家主権の重要な一部であり、それを放棄するというのだから、日本は独立国家たり得ない。
そして、戦争放棄を明言するということは、もう2度とアメリカとは戦いませんということと同義だから、「平和憲法」が目的としたのは、日本の平和ではなくアメリカの平和である。
アメリカは、こうして日本を戦争ができない国にしたが、それでは日本は自分自身で守れなくなる。そのため、SF平和条約を結ぶと同時に日米安保を結んだのである。これで、日本の“真の独立”は完全になくなった。この状況は、いまも続いている。
バイデン大統領の“憲法発言”の意味すること
2016年8月15日、当時オバマ政権の副大統領だったバイデン現大統領は、ペンシルベニア州スクラントンで行った民主党大統領候補ヒラリー・クリントンの応援演説のなかで、「日本国憲法は私たちが書いた」と発言した。
これは、共和党の大統領候補トランプを批判する際に飛び出したものだが、日本のメディアはいっせいに報道した。
たとえば、『読売新聞』(2016年8月16日)は、《米政府高官が公の場で「我々が書いた」と表現するのは極めて異例だ》と書いた。しかし、これは驚くような話でもなければ、異例でもない。普通に教育を受けたアメリカ人の常識だからだ。
では、当時、バイデンはなんと言ったのだろうか?
“Does he not realize we wrote the Japanese constitution so they could not own a nuclear weapon? Where was he in school? Someone who lacks this judgment cannot be trusted.”
《核兵器を持てないよう私たちが日本の憲法を書いたことを、彼(トランプ)は知らないのではないか。彼は学校で習わなかったのか。判断力に欠けた人間は信用できない》
アメリカの学校でよく使われている歴史の教科書『The American Pageant』では、日本国憲法は「マッカーサーが口述筆記させた憲法」“A MacArthur-dictated Constitutionと書かれている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。