共同通信
強権的な政権与党が選挙から野党を排除するなど、カンボジアで民主主義がさらに遠のいている。国外に逃れた人たちにとって、日本は祖国の民主化を目指す活動拠点の一つ。在日民主派の中には交流サイト(SNS)で政権批判を展開する人も。安住の地として選んだ日本で、難民認定の高い壁に直面しながらも「弾圧の実態を、もっと知ってほしい」と訴える。(共同通信)
▽夫を射殺され主婦から転身
「政府に反対する声は徹底的につぶされる」。日本でカンボジアの民主化を求める集会やデモに参加し、自身の体験を証言してきた神奈川県在住のカット・ソムニアンさん(35)は語気を強めた。祖国での恐怖に耐えかね、2018年に技能実習生として来日し、難民認定を求めている。
元々政治活動に関心のない普通の主婦だった。しかし2014年1月、首都プノンペンで縫製工場の労働者として賃上げ要求デモに参加していた夫が、治安部隊に射殺された。当時はまだ独立系メディアが多く、記者らに「なぜ正義は果たされないのか」と怒りを訴えた。
▽相次ぐ異変、義父はひき逃げ死
身の回りに異変が起き始めたのは、この頃からだ。路上でバイクに乗った集団に背後から蹴られたり、真夜中自宅のドア越しに男の声で「夫のように死にたいのか」と脅されたりした。2016年12月には集会などで政権を批判していた夫の父がひき逃げされ、亡くなった。
日本でも圧力を感じている。昨年、下院選で野党が排除されたことへの抗議動画をSNSに投稿すると、在日の与党関係者が自身の顔写真を掲げ「反体制派をやっつけろ」と動画を投稿。程なくして60代の母親が暮らすカンボジアの実家に何者かが投石したという。
▽SNSで対抗、300万再生も
神奈川県に住むワン・レアケナーさん(27)も難民申請中だ。TikTok(ティックトック)などを使った動画配信で政権による人権弾圧を糾弾。帰国すれば拘束は免れないと確信している。独立系メディアの多くが閉鎖に追い込まれた現状を踏まえ「国外の私たちが発信しなければならない」と語る。
動画再生は300万回超を記録したこともある。メディアでの情報収集を中心に、時には現地に直接連絡を取って住民の声を聞く。2024年3月には、土地収用に抗議する人たちへの当局の強硬姿勢を取り上げ「誰のための発展を目指しているのか」と政権を痛烈に批判した。
最近はカンボジア内外の同世代がSNSで政治に関して発信するようになったといい、手応えを感じている。「『いいね!』を付けてくれるだけで構わない。皆の意思表示が大きな動きになる」
【カンボジアの政治状況】
2023年7月の下院選で、フン・セン政権が有力野党キャンドルライト党を排除し、与党カンボジア人民党がほぼ議席を独占。選挙後、下院は首相を38年間務めたフン・セン氏の後継として長男フン・マネット氏を選任し、世襲による新内閣が誕生した。2024年2月の上院選でも人民党が圧勝。フン・セン氏は上院議長に就任し、独裁的な権力基盤を固めた。