共同通信
イランの首都テヘランに、隣国アフガニスタンの芸術文化を守ろうと開店したアフガン料理店がある。店主は1979年のソ連侵攻をきっかけにイランに逃れた写真家モハマドムーサ・アクバリさん(63)。2021年にアフガンで復権したイスラム主義組織タリバンが「不道徳」として音楽などを取り締まる中、「母国の芸術文化を絶やさない」と意気込んでいる。(共同通信=横田晋作)
店名はアフガン首都カブールの家を意味する「カハネ・カブール」。アフガン音楽が流れる30席ほどの店内にはアクバリさんが撮影したアフガン各地の写真を飾っている。人気メニューはアフガン風の炊き込みご飯で、日本円で約千円。民族衣装やアフガン人作家の本も販売する。
カブール出身のアクバリさんはソ連侵攻後の抵抗運動に関わった後、1983年にイランに逃れた。両国を行ったり来たりして写真やデザインを学び、アフガンに点在する歴史的建造物や自然、街並みを撮影してきた。
開店は2019年。きっかけは「アフガン文化が徐々に失われていると感じたから」だ。開店前に開いた展示会で、アフガン西部にあるモスク(イスラム教礼拝所)の写真を見て女児が泣いていた。理由を尋ねると、イラン人の同級生から「アフガンは暴力以外何もない」と言われて母国に失望していたが、美しいモスクを見て誇りに感じたと明かしたという。
「母国を見たことがない難民は数多い。文化的な側面も知ってほしい」とアクバリさん。アフガン関連映画の上映会やコンサートを店で定期的に開いているほか、2021年8月のタリバン復権後はアフガンから逃れてきた芸術家らの滞在支援に力を入れている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、タリバン復権後、イランには約100万人が流入。テヘランに逃れたアフガン人音楽家によると、弾圧を恐れた音楽家100人以上がイランで生活しているという。
一方、米国の制裁で経済的に困窮するイランは避難民の帰還を推進。治安悪化などを懸念する「アフガン恐怖症」と呼ばれる現象も起き、アフガン人が襲撃される事件が相次いだ。
アクバリさんも開店した後、客から嫌がらせを受けたと明かす。だが「母国の芸術文化を廃れさせないようにするのはわれわれ芸術家の義務だ。イラン人のアフガンに対する受け止めも変えることができればなおさらうれしい」と語った。