天皇陛下「人生にとって最も楽しい一時期」

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共同通信
オックスフォード大のベリオール・カレッジに到着し、関係者の出迎えを受けられる天皇、皇后両陛下=6月28日、英オックスフォード(共同)

 天皇、皇后両陛下は、それぞれ20代の頃、英オックスフォード大に留学された経験がある。天皇陛下は著書で「おそらく私の人生にとって最も楽しい一時期」とつづっている。

 6月の英国訪問の現地最終日だった28日、その思い出の地へ初めて皇后さまと2人そろって足を運んだ。

 陛下は訪英前の記者会見で「一口では表現できない数々の経験を積むことができた」と語り、さまざまな背景を持つ同年代の人々との出会いに恵まれた貴重な時間に思いをはせていた。(共同通信=大湊理沙)

 ▽自由な日々

 陛下は1983年6月から85年10月までの2年4カ月間、オックスフォードに滞在した。

 マートン・カレッジに籍を置き、学寮で初めての1人暮らし。食堂は「大切な交流の場」で、専攻分野や出身国が異なる学生とテーブルを囲み、多くの友人ができた。

 テムズ川の水運の歴史を研究する傍ら、趣味のビオラで弦楽四重奏のグループを作り、仲間とパブに行くなど自由な日々を謳歌した。

 オックスフォードの街は「ガウンを身にまとい、学帽をかぶって歩く学生と、パンク・ファッションの若者がすれ違っても特に違和感がなく、両者がうまく街に吸収されているように思われた」(訪英前会見)。

 留学中、約2千枚の写真を撮影したといい「私がいた当時と今で、どのように変わっているか、ぜひ確認してみたい」と胸を弾ませていた。

 皇后さまは結婚前、外務省の研修生として1988~90年にベリオール・カレッジに留学し、大学院で国際関係論を学んでいる。

 時期は異なるが、ともに2年間をオックスフォードで過ごした経験は今も共通の話題で、陛下は、皇后さまから早朝にボートの練習に参加した思い出などを聞くという。

 陛下は留学記「テムズとともに」の復刊に寄せて「私にとっての青春の記録」と記し、留学経験は「日本を見つめ直すまたとない機会」と振り返った。

 ▽立場は変わり

 約40年の時を経て、皇后さまと初めて一緒に歩くオックスフォードの街。陛下は、留学時代に買ったというネクタイを締めていた。皇后さまが学んだベリオール・カレッジでは、皇后さまが使った指導教室やチャペルを巡り、当時の教官や寮長と思い出話に花を咲かせた。

 皇后さまへの名誉法学博士号の授与式が催され、両陛下は赤いガウンをまとって出席した。宮内庁によると「留学時に研究にひたむきに取り組み、さまざまな言語に精通して相互理解の増進に貢献した」ことが評価されたという。

 マートン・カレッジでは、陛下が留学中に暮らした居室を訪れ、窓から2人並んで手を振った。オックスフォードで約8時間をゆっくりと過ごし、帰国の途に就いた。

 1993年に刊行された著書で、陛下は「再びオックスフォードを訪れる時は、おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたらなどと考えてしまう」と率直な気持ちを明かしていた。

 当時の浩宮から天皇に立場は変わった。ただ、隣には最愛の伴侶が共にいる。

 「思い出に満ちた場所を再訪することができました。心温まる充実した滞在になりました」。訪英を終えて公表した両陛下の感想に喜びがあふれていた。