ヒジャブ着用のタクシー運転手、名古屋走る

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共同通信
タクシーのハンドルを握る、ヒジャブを着用したドライバー、田畑ダニエレさん=2024年7月、愛知県大治町

 イスラム教徒の運転手、田畑ダニエレさん(44)が、頭髪を隠すスカーフ「ヒジャブ」を身に着けて名古屋市を中心にタクシーを走らせている。同市など17市町村の「名古屋交通圏」でヒジャブ着用の運転手は唯一とみられ、「イスラム教への偏見をなくしたい」という思いを胸に、2月から活躍中だ。(共同通信=清水友珠子)

 田畑さんはブラジル国籍で、レバノン人の父と日本人の母の間に生まれた。10代で出稼ぎのために来日し、20歳の時に病気療養で帰国したものの、数年後に再来日してからは日本で暮らす。

 工場やキッチンカーなどで働き、介護職も経験。「サービスを提供する仕事がしたい」と昨年11月に同市を中心に展開する「フジタクシーグループ」に入社した。多くの客と日本語で会話を重ねることで、さらに日本社会に溶け込んでいきたいとの気持ちもあった。

 入社後、旅客輸送に必要な2種免許取得に挑戦。試験は日本語で実施され、ひっかけ問題や時間制限が壁となり15回以上受験した末、合格した。

 乗務を開始すると、乗り込もうとした客に断られ「落ち込むこともあった」。しかし、相手から否定的な感情を向けられた時こそ「愛情」で返すのが田畑流。降車まで明るく対応する。

 「100%はできない時もあるけれど、そうしないと差別はもっとひどくなるからね」。イスラム教の悪口を言う人にも丁寧に説明し、決して拒絶しない。多くの人の「応援している」との声が力になっており、「もっと名古屋の道を勉強しなければ」と話す。

 タクシー業界はコロナ禍で激減した運転手や客数が回復傾向にある。訪日客の増加も見込まれ、日本語やポルトガル語など4言語を操る田畑さんは貴重な人材。同社は他にも韓国や中国籍などの運転手を採用し、蓑島忠史管理部長は「外国人客対応が重要となっており、管理職に外国人を起用するなどもっと環境を整えたい」と意気込む。

ヒジャブを着用したタクシードライバー、田畑ダニエレさん=2024年7月、愛知県大治町