津山恵子のニューヨーク・リポートVol.41 もっと多様性を、アニメの国ではない日本外国人が日本国籍取得すると・・・

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.41

もっと多様性を、アニメの国ではない日本
外国人が日本国籍取得すると・・・

 

アンちゃんと、ハンター大学、ニューヨーク大学、フォーダム大学の3校が協力し、日本語や日本文化を学ぶ生徒向けに特別授業が実現した Photo by Keiko Tsuyama

 

「日本がアニメや漫画のような国だという期待はしないでね」 と、友人のアンちゃんことアン・クレシーニさん。ハンター大学で9月23日、日本語を学ぶ学生やゲスト約30人への特別授業で、日本語と英語を交えてこう話す。  

バージニア州生まれのアンちゃんは、日本在住25年。北九州市立大学准教授で、2023年11月、「日本が好きでたまらなくて」念願の日本国籍を取得した。今回、日本のパスポートでアメリカに渡航した。ただ、 「(日本で)100%、受け入れてもらえるとも期待しないでね」 とも。日本国籍を持っていても「それでも、ガイジンだろ」「国に帰れ」とXなどで絡まれると語った。学生からは「オー!」「ブー!」と驚きの声が上がった。  

実はアンちゃんが、日本国籍取得後、Twitter(現X)に多様性に関するポストを連投すると、一部のユーザーから攻撃を受けた。アンちゃんは、反論した。

「『日本はもともと差別意識が少ない国だ』『古来から多様性が溢れている国だ』などと、頻繁にXで言われるのに、『ガイジン帰れ!』とよく言われる。ちなみに『ガイジン帰れ』は法的にヘイトスピーチです」(24年1月28日)。あるポストへの返答で「日本人になっていないよwww早くアメリカに帰れ」と書き込みがあり、アンちゃんが「帰りません」と答えるなど応酬が続いた。殺害の脅しや嫌がらせのEメールが届いた。食べ物も喉を通らなくなり、2カ月間、SNSから遠のいた。  

「日本スゴイ番組」を量産するほど、日本好きの外国人がもてはやされるが、国籍を取ったとなると、途端に敵視する。一部の日本人やネトウヨは、外国人が市民権を取っても「日本人ではない」と蚊帳の外におきたい、わからずやだ。  

しかし、幸いなことに彼らは少数派ではある。アンちゃんの同僚、ご近所、友人は100%、彼女を受け入れてくれる。私も応援団だ。また、彼女が長年にわたって学んだことも大切だ。

「自分の価値が正しい、正しくない、ではなく、単に『違う』のだと考えるのが大事」 「来日直後は、アメリカの文化がベストだと思っていたけど、今は違う。なぜなら私は人生で初めてマイノリティになったから」  

思えば、日本人は日本にいる限りは一生、マイノリティになることがない。一方で、海外に住む私たち日本人は、ずっとマイノリティであることを意識しながら暮らしている。この違いが、日本にいる日本人がアンちゃんのような「多様な日本人」の姿を認めたくない理由なのかもしれない。  

アメリカもベストな国ではない。ハンター大の生徒らは「人種差別主義者がたくさんいる」「銃の文化が根強い」「人種差別や銃、暴力の問題があるのに、アメリカは特別だと思っている」など、鋭い発言があった。  

ちなみにアンちゃんは、3人の娘の母親。三味線をたしなみ、演歌を歌い、着物の着付けもできて、お味噌も自家製だ。日本生まれの私は、三味線とお味噌は「専門外」としておこう。アンちゃんに会っていると、自分が外国人になったような気がしてしまう。 YouTube「アンちゃんのことばカフェ」 https://www.youtube.com/@annecrescini (津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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