津山恵子のニューヨーク・リポートVol.42
「分断」はさらに広がっている
Z世代男性は保守化、日本は?
「彼らは無知(uneducated)なんだ」 「無知」という言葉を久しぶりに聞いた。9月18日、ロング・アイランドで開かれた共和党大統領候補のドナルド・トランプ前大統領の集会に行った時だ。「ホフストラ大学」というパーカーを着た3人の男子学生。民主党候補のカマラ・ハリス副大統領を支援する同級生についてどう思うか聞くと即答だった。
彼らがトランプ氏を支持するのは、経済や移民政策において、ハリス氏よりもはるかにいいというのが理由だ。 「将来は家を買いたいが、今のバイデン・ハリス政権では何でも高くて無理だ。トランプ時代はそんなことはなかった」 「移民がペットを食べている」というトランプ氏の主張も彼らには刺さっている。 「米国のどこに行っても不法移民がいて、地域の家賃が上がったりしている」 ちなみにこの日の集会でトランプ氏は、1時間半にわたり演説したが、ほとんどの時間を使って、不法移民が「犯罪者」だという主張を繰り返した。
一方、ハリス氏の支援者は「無知」だが、ニュースはリベラル・保守の両サイドから得たいという。3人は、FOX、MSNBC、CNN、ABC、ニューヨーク・タイムズと次々にメディア名をあげ、保守系はFOXだけだ。FOX以外は、トランプ氏や彼を支援する富豪イーロン・マスク氏の発言が誤っていることは指摘している。しかし、おそらく学生らは、それに接しても信じないのだろう。
この学生らを含め、11月5日の投開票日に投票ができるZ世代は、4100万人に上る。歴史的に若いほどリベラル派が多く、オバマ元大統領やバイデン大統領も彼らの力で勝利を得た。しかし、今回は様相が違う。18〜34歳への調査で、トランプ氏支持が50%、ハリス氏支持が46%となった(SurveyUSAによる)。世論調査の専門家によると、特にZ世代の男性の保守化が進み、女性はリベラル化の傾向が強いという。男性の保守化の理由は、ジェンダー平等が進み、女性の成功が目立つ中、自分たちのステータスが危ういと感じているというもの。さらに、バイデン政権になってからの高インフレで、親の世代には当たり前だった車や家を買う見込みがつかないのが、自信を失うのに追い打ちをかけている。
学生の一人もこう認めた。
「Z世代男性は、保守に傾いていると思う。とにかく家が欲しいが、トランプの経済政策がカマラよりずっといいんだ」 日本でも総選挙を迎えるが、日本の若い人の保守化は長いこと続いている。経済の右肩上がりが望めない状況が30年以上も続き、自民党の一党支配が続いてきた。政治的に一体何が「保守」で、何が「リベラル」なのかさえ分からなくなりそうだ。
一方で、アメリカの若い人は、「保守」と「リベラル」の間の分断が深まる中に生きている。お互いを「無知」と決めつける危うい時代だ。
(写真と文 津山恵子)
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。