「青い州」から「赤い州」へ脱出せよ(2) テキサスがアメリカの中心になるのか?(下)

この記事の初出は2024年9月11日

三菱重工など日本企業もテキサスに本社移転

 もともと、コンピュータのデルの本社はオースティンにあり、ダラスには、半導体大手のテキサス・インスツルメンツの本社、通信大手のAT&Tの本部もあった。したがって、関連企業が移転してくる下地は整っていたが、ハイテック企業をはじめとする名だたる企業がテキサスを目指したのは、この後に詳述するさまざまな理由がある。
 日本関連で言うと、トヨタが北米本社をダラス郊外のプレイノに移転させたのが代表例だろう。トヨタが移転したので、デンソーも研究開発センターをつくった。
 三菱重工や日本製鉄もアメリカ本社をテキサスに移転させた。現在、テキサス州の在留邦人数は約1万4000人(2023年10月現在、在ヒューストン日本国総領事館)で、年々増加している。
 いまや、テキサスはアメリカのハイテック企業の一大集積地である。オースティン都市圏はシリコンバレー(Silicon Valley)に比して、「シリコンヒルズ」(Silicon Hills)と呼ばれている。

トヨタがテキサスに移転した4つの理由

 名だたる企業のテキサス移転で、やはり私たち日本人が真っ先に思い浮かべるのが、前記したトヨタである。
 北米トヨタ(Toyota Motor North America)は、2017年、カリフォルニア州トーランスからテキサス州プレイノに本社を移転した。ここに、北米各地に分散していた機能を集約させ、業務の効率化を図るとした。
 テキサス新本社の開所に当たって、トヨタは「北米ワントヨタ」を宣言した。
 ロサンゼルス郊外の街トーランスと言えば、人口約15万人の1割ほどを日系人が占め、日系のスーパーから飲食店、美容院、クリニック、学校まであって、日本人にとってもっとも暮らしやすい街だった。私も、ロサンゼルスに行ったときは何度か立ち寄った。
 しかし、トヨタが去った後は、昔の活気は薄れた。ただ、ホンダやパナソニックなどの日本企業は、いまも健在である。
 では、なぜトヨタはテキサスに移転したのか?
 その理由は、大きくまとめると、次の4点になる。
(1)経済発展性がどの州よりも高いこと(2)物流・交通の要衝であること(3)他州に比べ物価、地価、人件費が安く、ビジネスコストが少なくて済むこと(4)州の法人税および個人所得税がゼロであるという有利な税制があること。
このうち、(4)は企業経営にとって、なにより魅力的であるのは言うまでもない。

1つの国とみなすとGDPは世界トップ10

 テキサス州の面積は、26万1267平方マイル(67万6680平方キロメートル)で 日本の約1.8倍、アラスカ州に次いで全米第2位 。人口は約3000万人 .(2020年国勢調査)で、カリフォルニア州の約3300万人に次ぐ全米第2位である。
 GDPもまた全米第2位で、カリフォルニア州に次ぐが、過去10年の成長率を見ると、カリフォルニア州を大きく上回っている。
 そこで、テキサス州を1つの国とみなすと、世界の名目GDPランキングで、カナダ、韓国、ロシア、オーストラリアを抜き、世界トップ10に入る。


ダラスに飛べば世界どこにでも行ける

 このようになにもかもビッグなテキサスは、州内に鉄道、道路、航空などの交通網が張り巡らされ、産業・物流・交通の要衝となる大都市経済圏を4カ所持っている。
 ダラス・フォートワース都市圏、ヒューストン・パサディナ都市圏、サンアントニオ都市圏、オースティン都市圏の4つで、この4つとも目覚ましい発展を遂げている。
 日本からテキサスに行くには、羽田からの直行便で約13時間、ダラス・フォートワース国際空港に着く。この空港は、世界1、2位を争うハブ空港であり、航空世界最大手のアメリカン航空の拠点、要塞ハブ空港(fortress hub)となっている。
 そのため、ダラスに行けば、アメリカの主要都市はもちろん、北中米各国は例外なく、さらに欧州を含め全世界に飛べる。


テキサスは「ビジネスに最適な州」で第1位!

 これまでアメリカは、ニューヨークやボストンを中心とする「東海岸経済圏」と、ロサンゼルスやサンフランシスを中心とする「西海岸経済圏」の2つの軸で発展してきた。これにシカゴ中心の「中部経済圏」が続く。
 しかし、この3つ経済圏とも民主党によるブルーステートばかりになり、人件費や不動産価格、物価が高騰。さらに、税金も上がったため、近年はレッドステートが注目されるようになった。
 そのレッドステートの筆頭がテキサスである。テキサスはビジネスオーナーが選ぶ「ビジネスに最適な州」(「チーフエグゼクティブ」誌)で、なんとここ20年間も1位を続けている。
 ちなみに2位はフロリダ、3位はテネシーで、ワースト3は、カリフォルニア、ニューヨーク、イリノイである。
今年の7月、テキサス州知事グレッグ・アボットは、企業幹部を率いて、台湾、韓国、日本を歴訪し、テキサスをアピールした。
 日本では愛知県の大村秀章知事、東京都の小池百合子知事、トヨタ幹部などと会談し、日本企業のさらなるテキサスへの投資を促した。


この続きは10月15日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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