この記事の初出は2024年9月11日
なぜテキサスは州の法人税がゼロなのか?
テキサスがビジネスに最適な州1位の理由は、「ビジネスコストの安さ」にあるが、それを決定づけているのが、税金によるメリットである。
テキサスは他州に比べ固定資産税、売上税などは高いが、なんといっても州の法人税がゼロ(注:連邦法人税は課税される)、個人の所得税がゼロである。この点は、ビジネスにとっては決定的に有利である。
アメリカには「パススルー課税」(pass-through taxation)という、日本にはない課税制度があり、これにより法人税がゼロになる。これは、簡単に言うと、法人や組合などにおいて発生した利益に対し、当該の法人や組合には課税されず、その利益の配分を受けた出資者、構成員などに直接課税される制度である。
パススルー課税の対象となるのは、有限責任事業組合(LLP)、投資事業有限責任組合(LPS)、任意組合(VP)など。これらの組合は、民法上の組合の特例とされ、法人格を有さないので、法人税が課税されずにパススルー課税が適用される。
ただし、普通法人であっても、投資法人などには一定の条件を満たすと、パススルー課税が適用される。テキサスはまさにこの制度で、州の法人税をゼロにしている。ネバダ、オハイオ、ワイオミング、ワシントンなども週の法人税はない。
(注:テキサスの場合、州の法人税がない代わりに州内で営業活動をすることに対してのフランチャイズ課税がある)
個人所得税がないのはテキサスほか7州
アメリカの所得税は、連邦所得税と州の所得税の2段階になっている。連邦所得税はどの州でも同じ税率だが、州の所得税は州によってそれぞれ扱いが異なる。
このことは、個人にとっては、どこに住むかの大きな決め手になる。
日本でも、地方自治体によって地方税は微妙に異なるが、アメリカの場合は、州により大きく異なり、以下の3つに分かれる。(1)個人の所得税がない州、(2)所得税率が一律の州、(3)所得に対して累進課税を採用している州の3つだ。
このうち(1)は、テキサスのほか、次の7州である。
アラスカ、フロリダ、ネバダ、サウスダコタ、テネシー、ワシントン、ワイオミング。ワシントンがブルーステート、ネバダがスイングステートだが、残りはいずれもレッドステートである。
州の所得税のあるなしが、個人にとってどれほど大きな影響を及ぼすかは、人口移動が端的に表している。
2022年にカリフォルニアからテキサスに移住したのは、
10万2442人。一方、その逆にテキサスからカリフォルニアへ移住したのは4万2279人。差し引きで6万163人、テキサスの超過である。
青い州から赤い州への人口移動は止まらない
「青い州から赤い州への脱出」は、人口統計が端的に表している。
2023年12月19日、アメリカ国勢調査局は、全米50州の人口推移をまとめた報告書を発表した。
それによると、2023年に大量に人口が流出した(推計)のは、カリフォルニア州、ウェストバージニア州、イリノイ州、ニューヨーク州、オレゴン州、ペンシルバニア州、ハワイ州の8州で、ウェストバージニア州を除いてすべて、ブルーステート(民主党州)である。
なんと、ニューヨーク州では約10万人、カリフォルニア州では約8万人の人口が減少するとし、イリノイ州でも3万人を超える人口減に見舞われるとした。
このようにブルーステートが軒並み人口を減らすなか、レッドステートのテキサス州、フロリダ州、ジョージア州などは人口が急増している。
2022年以降、テキサス州では約47万4000人、フロリダ州では約36万5000人、ジョージア州では約11万1000人も人口が増えた。
赤い州でじょじょに青が赤を変えつつある
さて、最後に述べてみたいのは、このような「青い州から赤い州への脱出」が、政治的になにを引き起こすかだ。大統領選挙が1カ月半後となったいま、これを考えるのは極めて重要だ。
レッドステートのテキサスは、州知事も連邦上院議員の2人も共和党、連邦下院議員の3分2が共和党なので、共和党(赤)は盤石ではないかと思われる。しかし、たとえば州都オースティン都市圏に限ると、民主党がマジョリティとなる。市長も近郊郡の首長も民主党で、連邦下院議員も民主党だ。
これはブルーステートから移住してきた人間に、民主党支持者が多いことも影響している。移住者に限らず、都市部は民主党で郊外やカントリーは共和党というレッドステートは多い。
つまり、「青い州から赤い州への脱出」と言うトレンドは、じょじょに赤を青に変えつつある。もちろん、人口比の問題だが、これがどこまで進んだかで大統領選の行方も変わるだろう。(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。