津山恵子のニューヨーク・リポートVol.44 自己チューの高まり、選挙が変わる 国内や世界との調和に危機

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.44

自己チューの高まり、選挙が変わる
国内や世界との調和に危機

 

激戦地ペンシルベニア州で、トランプ氏が500票差で民主党から奪回したレビットタウンの投票所 Photo by Keiko Tsuyama

 

 「(トランプ派は)自分さえ良ければいいんだ」「100ドル減税になるからって魂を売ったんだ」―。11月5日の大統領選挙で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が再選したのを受けて、リベラル派市民が多いニューヨークでは、こうした声が聞こえてくる。  

勝利したトランプ氏の支援者はかつて、「白人」「男性」「中高年」「低学歴」という印象が強かった。しかし、選挙期間中に取材したトランプ集会では、女性や若い人が以前に比べて目立った。また、黒人やヒスパニック、LGBTQといった人種的・性的マイノリティもかなり見かけた。  

女性、若い人、マイノリティの人といえば、これまでは民主党の支持層とみなされてきたが、トランプ氏は見事に彼らを惹きつけた。選挙といえば、メディアや専門家はジェンダーや人種などで支持層を判断してきたが、それはもはや通じないということだ。トランプ・ファンと話すと、属性に関係なく、「インフレ」「国境の安全」など自分たちが気になる争点で支持をしていることが分かる。  

逆にいうと、「黒人だから民主党を支持するべきだ」とみなされるのは迷惑な話だ。ステーキが食べたい、ケーキが食べたいといったことは、属性に関係ない好みでもある。「ハリス副大統領が大統領になったら、さらに物価が上がる。トランプなら物価は安定する」と吹き込まれれば、家計に直結する話であり、トランプ氏に投票するだろう。  

しかし、アメリカ、あるいは世界の「調和」や「協調」はどうなってしまうのだろう。トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を打ち出すことにより、自由と民主主義を守ることを継承してきたG7や外交基調は乱されるだろう。すでに1期目では、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」から脱退。人類が地球温暖化を引き起こしているという科学的な根拠はないと強調し続けている。また、大西洋をまたぐ重要な軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)にも「欧州がアメリカの軍事力にただ乗りしている」と懐疑的だ。こうした国際協調を否定していけば、アメリカはグローバル・リーダーではなくなる。 米メディアによると、トランプ氏はこれまでライバルだった人物に復讐することも公言している。独裁や偏った政策が始まることも予想される。  

それでいいのだろうか。今回の選挙は、民主主義VS独裁政治、団結VS怒り、自由VS差別と両候補が明暗を分けていた。そうした際、自分は「ステーキをくれる人なら誰でもいい」と不調和を生む人物を選んでもいいのか。これが、「自己チュー(自己中心主義)」とみなされて、トランプ支持者は「自分さえ良ければいいんだ」という非難の言葉になるわけだ。  

国家のリーダーが調和を破り、常識を守らない、そういう時代が来る。私たち市民だけは、常識、正義を守り、知と調和を重んじる姿勢を維持しなければならない。(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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