日本のゴールデンウィークが過ぎ、日本の友人たちが何事もなかったかのように仕事や日々の生活に戻っていった5月のある日、去年の今ごろにラッキーキャットで浩一さんに会ったことを思い出した。NYでの1年って早過ぎる! 本当にいろんなことが起きた1年だった。生まれて初めてのパニックアタックみたいなことも経験したし、別れもあったし、出会いもあった。
きっと人生がゆっくりと変遷していって、種を蒔くべき時期だったんだろう。そして、これまでの1年で蒔いた種が芽を出して、それを摘み取るタイミングがまたやってくるんだろう。それがまた1年か、3年後か、いつになるかは分からないけれど。学生ビザの更新時期も確実にあと数年でやってくるわけだし、また人生を見据えなければならない。でも、きっとこうやって繰り返していくのだ。
ニューヨークで生きるのって、こうしたジェットコースターに乗っているようなライフを送ることなんだ
思い返せばつらいこともあったけれど、それでも私は今日も健康で暮らしているし、何より夢のNYで生活できている。
実華子は、NYに住んでみたいと望んでいた日本での生活を、NYが夢のまた夢だったころを思い出していた。私は夢を1つは叶えたのだ。NYで生きていける幸せを、このところ忘れていた。
日本にいたころ、NYを想っていつも聞いていたのが、アリシア・キーズの「エンパイア・ステート・オブ・マインド」だった。NYのことをエンパイアとするネーミングは最高にセンスがあると思う。「夢でできたコンクリートジャングルでは、できないことは何もない」。「ストリートがいつも原点に立ち返らせてくれる。新鮮な気持ちを運んでくれる」。「あなたはいまNYにいるの」。この曲の歌詞を聞いて、こっちの生活を思い描き、そしてこちらで暮らしてから、いかにこの曲が正確にNYでの気分を唱ったものかを知った。
タカコさんとローワーイーストサイドの店でオイスターのハッピーアワーを楽しむ約束をしていたから、久々にこの曲が無性に聞きたくなって、イヤフォンから流れるアリシアとJAY-Zの声に耳を傾けていると、店の前にはJとZ線のバワリー駅が見えた。そこにはなんと、JAY-Zのアートが。J、Zだからね! NYの神様は本当にいたずら好きだと思うし、生活の随所でこうしたおもしろい偶然を仕掛けてくる。真夏のような気温の、晴れわたった空から、神様の笑い声が聞こえたような気がした。