この記事の初出は2024年10月22日
最大規模の景気テコ入れ策を行うと発表
習近平は、9月30日、中華人民共和国の建国75周年記念に際しての演説で、こう述べた。
「潜在的な危険に留意し、雨の日に備えなければならない」
この言葉を受けて、中国はまたもや景気テコ入れ策を行うことになった。
10月12日、藍仏安財政相は、今後、「国債発行を大幅に増やす」と発表。そうして得た資金で、低所得者への補助金支給し、国有銀行へ資本注入をするとした。また、地方政府が特別債を活用して売れ残り住宅を買い取ることなどにも言及した。
藍氏は、「中国にはまだ債務を発行する余地が十分ある」と述べたが、景気テコ入れ策の規模がどの程度になるかは触れなかった。ただし、これまで行ってきたどの景気テコ入れ策よりも大きいことになるのは間違いないと思われる。
このテコ入れ策が的確なら、中国はデフレ不況から脱却するだろう。
ノーベル賞の学説は中国には当てはまらない
話は変わるが、今年のノーベル経済学賞に、マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、それにシカゴ大学のジェームズ・ロビンソン教授の3人が選ばれた。授賞理由は「制度がどのように形成され、国家の繁栄に影響を与えるかの研究」だ。
以前にこのメルマガで紹介したことがあるが、アセモグルとロビンソンの2教授は、『国家はなぜ衰退するのか』を共同執筆しており、その内容は高評価を得ていた。
テーマは、繁栄する豊かな国と貧しい国との違いはなにか?で、結論を簡略化して言うと、独裁国家や国家主導で経済を行っている国は衰退し、ある程度中央集権的で自由市場がある包括的政治制度の国家は成長する。
繁栄するためにはイノベーションが欠かせず、そのイノベーションを阻害する国家体制では、かりに天然資源が豊富でも繁栄しないという。
しかし、中国やUAEなどを見ていると、そうとは言えないのではないかと、最近、思うようになった。とくに、中国を見ていると、ネットやAIによるデジタルエコノミーの時代のいまは、逆ではないかと思う。つまり、独裁国家や国家主導経済国のほうが繁栄するのだ。
となると、中国はとことん侮れない。
先端技術ランキングでダントツの世界一
自由や制限されているにもかかわらず、中国ではイノベーションが次々と起こっている。その結果、いまや先端技術の9割を中国が独占している。
オーストラリアのシンクタンク「豪州戦略政策研究所」(Australian Strategic Policy Institute:ASPI)が8月28日に公表した、毎年恒例の「先端技術研究の国別競争力ランキング」では、中国が断然のトップとなっている。
AIなど軍事転用可能なものを含む64項目の重要技術が挙げられているが、そのうちのなんと57項目で中国が首位で、2位のアメリカは7項目に過ぎない。
これは、習近平が掲げたハイテク産業の振興策「中国製造2025」の成果で、中国はすでに「建国100年となる2049年に世界の製造強国の先頭グループ入りを果たす」を前倒しで達成してしまったと言える。
中国がトップの57項目のなかで、とくに他国を大きく引き離している技術は、レーダーや衛星測位、ドローンなど24項目。音速の5倍以上で飛行する極超音速ミサイルの関連技術の論文では73%を中国が占め、アメリカの13%、英国の3%に大きな差をつけている。また、先端航空機エンジンの占有率は63%と、2位のアメリカの7%を大きく引き離している。
ちなみに、中国が断然の1軍、アメリカが2軍としたら、日本は4軍である。日本の場合、トップ5に入った技術は8項目しかない(トップではないトップ5以内だ)。これに対して韓国は24項目もある。
もはや、日本は技術小国、後進国である。(つづく)
この続きは11月19日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。